ワイルドリバーアドベンチャー レースレポート:テクニカル地形におけるルート選択とナビゲーション精度向上
はじめに
今回は、先日参加した「ワイルドリバーアドベンチャー」のレースレポートと、そこから得られた学びについて詳細にご報告します。このレースは、清流として知られる河川沿いのトレッキング、そして特徴的な区間として設定されたテクニカルな沢登りや密度の高い藪漕ぎを含むセクションが組み合わされた、体力とナビゲーション精度、そして特殊なスキルが試される大会でした。
我々のチームにとって、このレースで特に課題と位置づけていたのは、地図とコンパスのみで進むテクニカルセクションでのルート選択と、そこでのナビゲーション精度維持でした。これまでのレース経験を通じて、比較的整備されたトレイルや明確な特徴点がある場所でのナビゲーションには自信がつきつつありましたが、地形が複雑で視界が効かない場所での判断にはまだ改善の余地があると感じておりました。
この記事では、レース全体を振り返りつつ、特にテクニカルセクションでの具体的な判断プロセスと、そこから見えてきたナビゲーションに関する課題、そして今後の改善に向けた具体的なアプローチに焦点を当てて記述します。このレポートが、読者の皆様が自身のレースでテクニカルな地形に直面した際の準備や判断の一助となれば幸いです。
レース前の準備:戦略と目標
ワイルドリバーアドベンチャーに対する我々の戦略は、「得意なセクションで貯金を作り、課題であるテクニカルセクションをいかにロスなく通過するか」という点に集約されました。目標タイムは設定せず、あくまでも計画通りのナビゲーションを遂行し、チームとしての連携を最大限に活かすことに重点を置きました。
装備選択においては、特に沢登りや藪漕ぎを想定した準備を行いました。シューズは濡れても排水性が高く、かつ濡れた岩でもグリップが効くものを選択。ウェアは藪での裂傷を防ぐため、ある程度の強度があるものを選びました。また、沢越えが複数想定されたため、防水対策としてマップケースやドライバッグは必須と考えました。ナビゲーションツールとしては、公式提供の地図とコンパスに加え、防水機能付きのGPSデバイスを予備として携行しましたが、原則としては地形図読図とコンパスワークで対応する方針でした。
直前の調整としては、地形図を使ったルート選択シミュレーションをチームで繰り返し行いました。特にテクニカルセクションに関しては、等高線や記号から想定される状況を共有し、考えられる複数のルート案とそのリスク・リターンについて議論を深めました。
レース中の詳細:具体的な判断と行動
スタート〜中盤:河川沿いトレッキングとロード
レースは穏やかな河川沿いのトレイルから始まりました。ここは比較的フラットでペースを上げやすいセクションでした。我々は設定したペースを維持しつつ、後続との距離を確認しながら進行しました。ナビゲーションは容易で、チェックポイント(CP)へのアプローチもスムーズでした。この区間では、無理なく体力を温存し、後のテクニカルセクションに備えることを意識しました。チーム内のコミュニケーションも良好で、お互いの体調を確認しながら進みました。
テクニカルセクション:沢登りと藪漕ぎ
このレースの核心とも言えるテクニカルセクションに突入しました。最初のうちは沢筋が比較的明確で、地形図と照らし合わせながら順調に進むことができました。しかし、沢が枝分かれし、地形が複雑になるにつれて、正確な現在地把握が難しくなりました。
- ルート選択の判断: 地形図から見て、沢沿いをそのまま進むルートと、一度沢から離れて比較的緩やかな尾根を迂回するルートが考えられました。我々は沢沿いを進むルートを選択しました。理由は、距離が短く、沢筋を辿ることで目印が得やすいと考えたためです。しかし、予想以上に沢中の岩や倒木が多く、通過に時間がかかり、体力も消耗しました。ここで一度、迂回ルートを選択すべきだったかという議論がチーム内で起こりましたが、すでに沢奥深くまで入っていたため、当初のルートを継続する判断をしました。
- ナビゲーションの課題: 沢中では視界が悪く、周囲の地形との位置関係を把握するのが困難でした。持参したGPSで現在地を確認することも検討しましたが、あくまで原則通り地図とコンパスでのナビゲーションを遂行することにこだわりました。結果として、ある分岐点で誤った沢筋に進んでしまい、数十分のロスを招いてしまいました。この時、チーム内で「少しおかしい」という違和感は共有できていましたが、どこで間違えたのかを特定するのに時間がかかりました。迷った際の対応として、一度立ち止まり、冷静に地図と周囲の地形を照らし合わせ、進んできた方向を再確認しました。
- 藪漕ぎでの苦戦: 沢から離れて藪漕ぎで次のCPを目指す区間も同様に苦戦しました。密集した低木やシダが視界を遮り、コンパスで方向を維持するのが非常に困難でした。チームメンバーが交代で先頭に立ち、ルートを切り開きながら進みましたが、ペースは大幅に低下しました。ここでもナビゲーション精度が落ち、目標としていた地点からずれて出てしまうというミスが発生しました。
- チーム連携: 困難なテクニカルセクションでは、チーム連携の重要性を改めて痛感しました。疲労が蓄積する中で、ネガティブな感情が出そうになるメンバーを他のメンバーが励まし、支え合いました。特にナビゲーションミスが発生した際には、原因究明とリカバリー策について全員で意見を出し合い、最善と思われる行動を選択しました。しかし、焦りからか、時には意見が衝突しそうになる場面もあり、冷静なコミュニケーションを保つ難しさも感じました。
- 装備・補給: 沢や藪での装備は、選択したものが概ね適切でした。シューズのグリップ力は高く、沢中の岩でも滑ることは少なかったです。ウェアも藪での引っかかりに耐え、破れることはありませんでした。しかし、バックパックが藪に頻繁に引っかかり、体力の消耗を早める一因となった可能性がありました。補給については、テクニカルセクション通過に予想以上に時間がかかったため、計画よりも早くジェルなどを消費してしまいました。予備は持っていましたが、少し焦りを感じました。
終盤:下りとフィニッシュ
テクニカルセクションを脱出し、比較的整備された下りに入ると、ペースを取り戻すことができました。終盤は疲労困憊でしたが、チームで励まし合いながら最後の力を振り絞りました。ここでのナビゲーションはそれほど難しくありませんでしたが、疲労からくる注意力の低下を感じました。無事フィニッシュゲートを通過し、レースを終えました。
詳細な振り返りと分析
レース全体を振り返り、成功要因と失敗要因を詳細に分析しました。
成功要因:
- 事前のルートシミュレーション: テクニカルセクションの難しさを想定し、事前に地形図上で複数のルートを検討していたことは、実際に直面した際の判断の基盤となりました。
- チーム内のポジティブな雰囲気: 困難な状況でもお互いを励まし合い、支え合ったことで、チームの士気を維持し、最後まで力を出し切ることができました。
- 装備選択の一部成功: 特にシューズとウェアの選択は、テクニカルセクションを安全に通過する上で大きな助けとなりました。
失敗要因:
- テクニカルセクションでのナビゲーション精度: 最も大きな課題は、沢や藪といった視界が悪く地形が複雑な場所でのナビゲーション精度でした。地形図読図とコンパスワークだけでは、正確な現在地把握と進行方向維持に限界があることを痛感しました。
- 原因: 地形図から読み取れる情報だけでは、現地の微細な起伏や障害物(倒木、岩など)を完全に把握できないため、想定したルートとのずれが生じやすかったこと。また、視界が悪く、周囲の地形との相対的な位置関係を確認しづらかったこと。
- ルート選択判断の甘さ: 沢沿いルートを選択した際、地形図上の等高線や記号から読み取れる「困難さ」の度合いを過小評価していた可能性があります。より安全で確実な迂回ルートを検討すべきでした。
- 原因: 短距離で済ませたいという焦りや、未知のテクニカルセクションへの挑戦心から、リスク評価が甘くなった可能性があります。
- チームコミュニケーションの一部課題: 迷った際や疲労困憊時に、冷静な議論や判断が難しくなる場面がありました。意見の集約に時間がかかったり、判断がぶれたりすることがありました。
- 原因: プレッシャーや疲労による精神的な余裕の欠如。
読者への学び:
- テクニカル地形におけるナビゲーション: 地形図とコンパスは基本中の基本ですが、視界の悪いテクニカルセクションでは、それだけでは精度維持が難しい場合があることを理解しておく必要があります。GPSなどの補助ツールをどのように活用するか(主たるナビゲーションには使用せずとも、現在地確認や進捗管理の補助として)を事前に明確にしておくことが有効と考えられます。また、迷う可能性を前提に、リカバリーの計画(どこまで戻るか、どのように情報を集めるか)を事前に考えておくことも重要です。
- リスクを考慮したルート選択: 地形図上でテクニカルと判断されるセクションにおいては、安易に最短ルートを選ばず、リスク(通過に要する時間、体力の消耗、ナビゲーションミス)を十分に考慮した上で、迂回ルートも含めて総合的に判断することが求められます。難易度の高いセクションでは、多少遠回りでも確実なルートの方が結果的に早い場合があることを認識する必要があります。
- チーム連携とコミュニケーション: 困難な状況ほど、チーム内の冷静なコミュニケーションが重要になります。疲労困憊時でも建設的な議論ができるよう、普段からの信頼関係構築はもちろん、レース中にも定期的に体調や精神状態を確認し合い、オープンな意見交換ができる雰囲気を作ることが大切です。迷った際など、特に重要な判断を迫られる場面では、全員が情報を共有し、納得の上で行動を決定するプロセスが不可欠です。
装備レビュー
今回のレースで使用した装備の中から、特に印象に残ったものをいくつかレビューします。
- トレイルランニングシューズ(沢対応モデル): 濡れた岩や泥でのグリップ力は非常に高く、沢中での安定した歩行に貢献しました。排水性も優れており、水から上がった後もすぐに乾く点が良かったです。テクニカルな沢や濡れた岩場を含むレースでは、このような専用モデルの選択が有効だと改めて感じました。
- 軽量防水シェル: 藪漕ぎでの擦れや引っかかりに対する耐久性も考慮して選んだものですが、予想以上に藪が密であったため、多少の傷はつきました。しかし、破れることはなく、軽量性とのバランスでは良い選択だったと言えます。
- 防水マップケース: 沢越えや雨天時でも地図を保護するために必須でした。首から下げるタイプのものを使用しましたが、藪漕ぎ中に枝に引っかかりやすく、破損のリスクを感じました。腕に装着するタイプや、より身体に密着させられるものの方が適しているかもしれません。
- バックパック: 容量的には適切でしたが、外側のメッシュポケットなどに引っかかりやすい部分が多く、藪漕ぎの抵抗となりました。テクニカルなセクションが多いレースでは、可能な限り凹凸が少なく、シンプルなデザインのバックパックの方が有利だと感じました。
具体的な改善策
今回のレースで明らかになった課題、特にテクニカルセクションにおけるナビゲーション精度とルート選択能力の向上に向けて、以下の具体的な改善策を実行に移す計画です。
- テクニカル地形に特化したナビゲーション練習:
- 地形図上では特徴点が少なく、等高線が込み入ったエリアを選定し、実際にフィールドワークを行います。コンパスだけでなく、地形を読むスキル(尾根、谷、斜面の特徴から現在地を特定する練習)に重点を置きます。
- 沢筋や密藪など、視界が極端に悪い場所でのコンパスワークの精度を高める訓練を行います。数メートル先の目標を設定し、正確に進む練習を繰り返します。
- リスク評価能力の向上:
- 地形図を見る際に、等高線の密度や記号(崖、湿地、密藪など)から読み取れる地形の困難さをより客観的に評価する練習を行います。
- 過去のレースレポートや経験者のアドバイスを参考に、特定の地形における通過時間や体力の消耗度合いの目安を蓄積します。
- 机上でのルートシミュレーション時に、最短ルートだけでなく、リスクを回避する迂回ルートについても、通過時間や体力の消耗、ナビゲーションの容易さなどを具体的に比較検討する訓練を重ねます。
- チーム内コミュニケーションの強化:
- 日常的に、レース中の特定の状況(例: 迷った時、メンバーが疲れている時)を想定したロールプレイング練習を行います。冷静な状況での意見交換や、簡潔かつ正確な情報伝達の方法を確認します。
- 疲労困憊時でも建設的なコミュニケーションが取れるよう、非言語的なサイン(顔色、声のトーンなど)にも注意を払い、お互いをサポートする意識を高めます。
- 装備の見直し:
- 藪漕ぎへの適性を考慮し、よりシンプルなデザインで引っかかりにくいバックパックの検討を行います。
- 沢越えを想定した防水対策として、マップケースの種類や携行方法について、藪漕ぎやクライミングなどの動きを阻害しない最適な方法を検証します。
まとめ
ワイルドリバーアドベンチャーは、我々チームの強みと弱みを明確に浮き彫りにしたレースでした。特に、テクニカルな沢や藪といった地形でのルート選択とナビゲーションに大きな課題があることを認識することができました。
この経験から得られた最も重要な学びは、未知の、あるいは困難が予想される地形に直面する際は、地図とコンパスの基本スキルに加え、地形を深く読み解く力、そしてリスクを冷静に評価する判断力が不可欠であるということです。また、そうした状況下でチームとして機能するためには、普段からの地道なトレーニングと、信頼に基づいた強固なチーム連携が重要であることを再認識しました。
今回の反省を糧に、具体的な改善策を実行し、次のレースではさらに高いレベルのパフォーマンスを目指してまいります。今後もレースへの挑戦を通じて得られた学びを、このブログで共有してまいりますので、読者の皆様のレース活動の一助となれば幸いです。