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トレイルエンデュランスチャレンジ レースレポート:予期せぬルートロストと判断ミスからのリカバリー戦略とメンタル立て直し

Tags: アドベンチャーレース, レースレポート, リカバリー戦略, メンタルトレーニング, ナビゲーション, チーム連携

はじめに:困難からの立て直しに焦点を当てる

「トレイルエンデュランスチャレンジ」は、山岳地帯を中心に行われる複数日間のアドベンチャーレースです。このレースでは、ナビゲーション、体力、チームワークはもちろん、予期せぬ状況への対応力も問われます。今回の参加を通して特に深く学んだのは、計画通りに進まなかった際の「リカバリー戦略」とその実行を支える「メンタルの維持」の重要性でした。本稿では、レース中に発生したルートロストや判断ミスからいかに立ち直り、レースを最後まで継続できたのか、その具体的なプロセスとそこから得られた教訓に焦点を当てて詳細にレポートします。

レース前の準備:目標設定とリスクへの備え

このレースに臨むにあたり、チームとしての目標タイムを設定し、各セクションの予想通過時刻を綿密に計画しました。装備についても、過去の経験を踏まえ、軽量化と機能性のバランスを重視しました。特にナビゲーション関連装備としては、予備のコンパス、バッテリー容量の大きいGPSデバイス、そして防水加工された地図を準備しました。

しかし、レース前の準備で今思えば不足していた点があります。それは、「計画が大きく狂った場合の具体的なリカバリープラン」の共有です。例えば、想定外のルートロストにどの程度の時間を費やした場合、どのような判断基準で次の行動を決めるか、チーム内で共通認識を持つべきでした。また、疲労困憊や判断力の低下が予測されるレース後半における、お互いの状態を把握し、サポートし合うための合図やルールなども、より具体的に定めておくべきだったと考えています。

レース中の詳細:計画からの逸脱とリカバリー

レースは順調にスタートし、最初のトレッキングセクションは計画通りのペースで進行しました。しかし、問題は2つ目のトレッキングセクション終盤で発生しました。チェックポイント(CP)へのアプローチにおいて、複数の尾根が複雑に入り組んだ地形を通過する必要がありました。

ナビゲーションの失敗とルートロスト

当初の計画では、特定の沢筋を基準に標高を確認しながら進むルートを選択しました。しかし、現地で見た地形は想像以上に細かな起伏が多く、沢筋も不明瞭でした。この状況下で、チーム内で複数の意見が出ましたが、最終的に私が過去の類似地形での成功経験に引きずられる形で、少し高めの尾根筋を進む判断をしました。

この判断が誤りでした。尾根筋は藪が深く、想定以上に体力を消耗しました。さらに悪いことに、途中で視界が開けた際に確認した周囲の地形が、地図上のどの地点とも一致しないことに気づきました。完全に計画ルートから外れ、現在地を見失っていたのです。

この時点で、予定していたCPへの到着時刻を大幅に過ぎていました。チーム内に焦りの色が広がり、雰囲気は明らかに沈滞しました。これが最初の大きな試練でした。

リカバリーの判断と行動

ルートロストが判明した後、私たちは冷静さを取り戻すべく、一時的に足を止めました。まず行ったのは、全員で地図、コンパス、GPSを持ち寄り、現状把握に努めることでした。焦りは禁物であり、さらに深みにはまるリスクを避けるため、地形とコンパスを使って正確な方向を確認し、GPSで大まかな現在地を特定することを優先しました。

幸い、GPSデバイスが機能していたため、おおよその位置は掴めました。しかし、地図上の細かい特徴と一致させるには時間がかかりました。このリカバリープロセスに約40分を費やしました。この間、チーム内では「早く進まなければ」という焦燥感と、「どこに進むべきか分からない」という不安が入り混じったコミュニケーションが見られました。

最終的に、現在地を比較的確実な地点に特定し、当初の計画ルートに戻るのではなく、最も安全かつ確実に次のCPに到達できると判断した、より保守的なルートを選択しました。この判断は、それまでの時間損失を取り戻そうと焦ってリスクの高いショートカットを狙うのではなく、まずは確実にレースを継続することを最優先した結果でした。

チーム連携とメンタル面

ルートロスト中は、チームの誰もが精神的に追い詰められていたと感じます。沈黙が続いたり、お互いのちょっとした言動に苛立ちを感じたりすることもありました。しかし、リカバリー判断を下し、新たなルートを進み始めてからは、チームの雰囲気は徐々に改善しました。特に、リーダーの一人が「失った時間は仕方ない、ここから集中し直そう」と前向きな声かけをしたことが、チーム全体の士気を立て直す上で非常に重要でした。

また、このセクションでの時間損失を取り戻そうと、次のバイクセクションで無理なペースアップを図った結果、補給がおろそかになり、後半で軽いハンガーノックに陥るという二次的な判断ミスも犯しました。リカバリー後も、焦りが完全に払拭されていなかった証拠です。

装備・補給

ナビゲーションにおいては、頼みのGPSが現在地特定に役立ちましたが、もしバッテリーが切れていたら、さらに困難な状況に陥っていたでしょう。予備バッテリーの重要性を再認識しました。また、防水地図ケースは非常に有効でしたが、複雑な地形図を長時間見続けることによる目の疲れも感じました。補給に関しては、前述の通り、リカバリー後の焦りから計画通りの補給ができず、パフォーマンス低下に繋がりました。困難な状況下でも、ルーティンとして計画された補給を確実に実行する意識が不足していました。

詳細な振り返りと分析:失敗からの学び

今回のレースでの最大の学びは、予期せぬ困難に直面した際の「対応力」と、それを支える「メンタルの強さ・柔軟性」の重要性です。

失敗要因の分析

成功要因の分析

読者への学び

アドベンチャーレースにおいて、計画通りに進まない状況は常に起こり得ます。重要なのは、完璧な計画を立てること以上に、計画が崩れた時にいかに柔軟に対応し、立て直すかです。

装備レビュー:リカバリーを支えた、あるいは課題となったギア

今回のレースでは、いくつかの装備がリカバリーにおいて特に印象に残りました。

具体的な改善策:次へのステップ

今回の経験を踏まえ、次回のレースに向けて以下の具体的な改善策を実行する予定です。

  1. リカバリーシナリオに基づくチーム練習: 想定されるトラブル(ルートロスト、装備破損、体調不良など)をシナリオ化し、実際のフィールドでチームとしてどのように対応するかを練習します。具体的な情報収集の手順、判断基準、役割分担を確認します。
  2. メンタルトレーニングの導入: 困難な状況でも冷静さを保ち、前向きな思考を維持するためのメンタルトレーニングを取り入れます。瞑想、ポジティブ思考の習慣化、失敗からの学びを言語化する練習などが考えられます。
  3. ナビゲーションスキルの再確認と実践: 地図、コンパス、高度計のみを使ったナビゲーション練習を増やします。特に複雑な等高線や細かな地形を読み解く精度を高めます。また、GPSの活用方法についても、現在地特定だけでなく、ルート確認や過去の軌跡分析など、多角的に活用する練習を行います。
  4. 装備チェックリストの更新と再確認: レース前に使用する装備チェックリストに、「リカバリーを想定した装備(予備バッテリー、補給食のバリエーションなど)」の項目を追加し、その重要性をチームで共有します。
  5. レース中のコミュニケーションルールの明確化: 疲労やプレッシャーがかかった状況でも、お互いの状態を正確に把握し、建設的な対話を行うためのコミュニケーションルールを定めます。例えば、「〇〇の状態の時は、△△という合図をする」「意見が分かれた場合は、□□という手順で決める」など、具体的なアクションを取り決めます。

まとめ:困難は成長の機会

アドベンチャーレースは、計画通りに進むことの方が稀です。予期せぬ困難に直面した時、いかに冷静に対応し、レースを継続するか。そして、チームとして互いを支え合い、精神的に立て直せるかが、完走、そして目標達成のための鍵となります。今回のトレイルエンデュランスチャレンジでのルートロストとリカバリーの経験は、私にとって大きな教訓となりました。失敗から目を背けるのではなく、詳細に分析し、具体的な改善策に繋げること。そのプロセスこそが、アドベンチャーレースを通じて私たちが成長できる最も価値のある部分であると確信しています。この経験が、読者の皆様自身のレース活動における困難への立ち向かい方に、何らかの示唆を与えられれば幸いです。