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疲労困憊下におけるチーム意思決定:ミストバレー24時間アドベンチャーに見る役割分担と判断プロセスの課題と改善策

Tags: アドベンチャーレース, チーム連携, 意思決定, レースレポート, ナビゲーション, 疲労管理, 改善策

アドベンチャーレースにおけるチーム連携は、各メンバーの身体的・技術的な能力の総和以上の力を発揮するために不可欠な要素です。特に長距離・長時間のレースでは、疲労やストレスが蓄積し、冷静な判断が難しくなる場面が増加します。このような状況下でのチーム内の意思決定プロセスや役割分担は、レース結果に直結する重要な課題となります。

今回は、先日参加した「ミストバレー24時間アドベンチャー」での経験を基に、疲労困憊下でのチーム意思決定、計画していた役割分担がどのように機能したか、そしてそこから見えてきた課題と次への具体的な改善策について詳細にレポートします。このレースは、山岳トレッキング、MTB、パドル、そして複雑なナビゲーションを含む、変化に富んだコース設定でした。

レース前の準備:戦略と役割分担の計画

ミストバレー24時間アドベンチャーに向けたチームの準備期間では、目標タイムの設定に加え、特にチーム内の役割分担と意思決定プロセスについて議論を重ねました。過去のレース経験から、疲労が判断を鈍らせ、意見の対立を生むことを痛感していたためです。

具体的には、以下のような役割分担を計画しました。 * メインナビゲーター: 地図読み、ルート選定の主導 * サブナビゲーター/コンパス担当: メインナビゲーターの確認、コンパス方向の維持 * ペースキーパー: チーム全体の移動速度管理、休憩タイミングの提案 * 装備・補給管理: 必要な装備・補給食の管理、残量の確認 * チームリーダー: 全体統括、最終的な意思決定(ただし、可能な限りチーム全員の合意を優先)

意思決定プロセスについては、「疑問や異なる意見がある場合は必ず声に出す」「大きな判断(ルート変更、長めの休憩など)は全員で合意する」「時間がない場合はチームリーダーが判断するが、その理由を後で共有する」といった基本的なルールを設けました。

レース中の詳細:判断と行動の検証

レースは予定通り午前中にスタートしました。最初のトレッキングセクションは比較的地形が分かりやすく、事前の役割分担に従い、メインナビゲーターがルートを読み、サブナビゲーターがコンパスと地形を照合しながら順調に進みました。ペースキーパーも適宜声かけを行い、オーバーペースを防ぐことができました。

課題が見え始めたのは、夜間に入った後のMTBセクションでした。アップダウンの多い林道をひたすら進む中で、メンバー間の疲労度に差が出始め、ペースに関する意見が分かれました。「少しペースを落としたい」という意見と、「貯金を作りたいから維持したい」という意見です。ここで、事前の「全員で合意」というルールに則り議論しましたが、疲労からか説明が感情的になったり、互いの意図が正確に伝わりにくくなったりしました。結局、数分を費やして妥協点を探りましたが、冷静さを欠いた話し合いはチームの雰囲気にも影響を与えました。

ナビゲーションにおいても、疲労は判断ミスを誘発しました。深夜の密林でのトレッキングセクションでは、メインナビゲーターが細かい地形を見落とし、一瞬ルートを外れかけました。幸い、サブナビゲーターがコンパスの維持方向がずれていることに気づき、すぐに修正できましたが、もし気づかなければ大きなタイムロスに繋がっていたでしょう。この時、メインナビゲーターは疲労で集中力が低下しており、サブナビゲーターへの情報共有が不十分になっていたことが原因でした。計画していた役割分担はありましたが、疲労下ではその遂行精度が低下する、という現実を目の当たりにしました。

パドルセクションでは、単調な動きが続く中で睡魔に襲われるメンバーもいました。この時、ペースキーパーが定期的に声かけを行い、歌を歌ったり簡単なクイズを出し合ったりして、意識を保つ工夫をしました。これは計画外の行動でしたが、状況に応じた柔軟な対応がチームを助けました。

終盤のトレッキングセクションでは、フィニッシュまでの残り時間と体力残量を考慮したルート選択が求められました。比較的短いが急登を含むルートと、少し距離はあるが緩やかなルートの選択です。チームリーダーが両方のメリット・デメリットを説明し、全員の意見を聞きました。疲労困憊ではありましたが、この時は互いの状態を理解し、慎重に議論した結果、全員が納得できるルートを選択することができました。これは、レース終盤になるにつれて、チームとして「どうすれば全員で完走できるか」という共通認識が強くなったためだと感じています。

詳細な振り返りと分析

レースを終え、チームで詳細な振り返りを行いました。

成功要因: * レース前に役割分担と意思決定プロセスについて話し合ったこと自体が、レース中に意識的な行動を促しました。 * サブナビゲーターがチェック機能を果たし、大きなナビゲーションミスを防ぐことができました。 * ペースキーパーの役割が、特に疲労下でのチームのまとまりやペース維持に貢献しました。 * 困難な状況でも、互いの状態を気遣う声かけやサポートが自然に行われました。 * 終盤の重要な意思決定において、冷静に議論し、全員が納得する判断ができたことは大きな成功でした。

失敗要因: * 疲労困憊下では、計画した役割分担の実行精度が低下しました。特に情報共有の不足や聞き間違いが発生しました。 * 「全員合意」のルールが、疲労下での感情的な意見対立を招き、意思決定に時間を要する場面がありました。 * 特定のメンバー(特にナビゲーターやリーダー)に精神的な負担が集中し、パフォーマンスに影響が出ました。 * 休憩や補給のタイミングに関する判断が、事前の計画よりも感覚的になりがちでした。

読者への学び: * レース前のチーム戦略会議で、役割分担と意思決定プロセスを具体的に話し合うことは非常に重要です。しかし、同時に、疲労下では計画通りにいかない可能性があることを認識しておく必要があります。 * 意思決定のルールは、「全員合意」を理想としつつも、緊急時や時間的制約がある場合の代替手段(例: リーダーが判断、または多数決)も決めておくべきです。ただし、その判断には責任が伴い、後で必ずチームで振り返ることが不可欠です。 * 疲労下では、情報共有の精度が落ちます。重要な情報の確認は複数回行う、単純な言葉で伝える、といった工夫が必要です。 * 特定の役割に負担が集中しないよう、状況に応じて役割を交代したり、複数のメンバーで同時に確認したりする仕組みを検討することが有効です。 * 困難な状況での互いの声かけや、ユーモアを交えたコミュニケーションは、チームの士気を維持し、冷静さを保つ助けとなります。

具体的な改善策

今回の経験を踏まえ、次のレースに向けて以下の具体的な改善策を講じる予定です。

  1. 役割分担の柔軟化とクロスチェック体制の強化:

    • 事前に各セクションで想定される役割分担を複数パターン準備し、レース中の状況に応じて柔軟に切り替えられるように話し合います。
    • 特にナビゲーションなど重要な判断を伴う役割については、常に2名以上で情報を確認し、互いに疑問点を投げかけ合うクロスチェック体制をより意識的に実行します。
  2. 疲労下での意思決定ルールの明確化:

    • 「全員合意」を原則としつつ、「重大な危険を回避するための判断」「時間的猶予がない場合の判断」など、特定の条件下ではチームリーダーが最終決定権を持つことを改めて確認し、チーム全員で合意します。この場合も、判断理由の簡潔な共有とその後の振り返りは必須とします。
    • 意見が対立した場合の冷静な話し合い方(例: まず相手の意見を要約して理解を示す、感情的にならず事実に基づいて話す)について、チームミーティングで繰り返し確認します。
  3. チームコミュニケーションの質向上に向けた練習:

    • 普段の練習時やチームミーティングにおいて、レース中の様々なシチュエーション(疲労困憊、悪天候、ルートロストなど)を想定したロールプレイングを行い、互いの意見を尊重しつつ、迅速かつ正確に意思決定を行う練習を取り入れます。
    • 定期的に互いの強みや弱み、レース中の精神状態の変化について率直にフィードバックし合う機会を設けます。
  4. 定期的なチーム状態の「見える化」:

    • レース中に1〜2時間おきなど、定期的に立ち止まり、ナビゲーターだけでなく全員が地図を確認し、現在地、進行方向、次の目標について認識を共有する時間を作ります。
    • 各メンバーが自身の疲労度、体調、精神状態を正直に申告し、チーム全体で状況を把握する仕組みを設けます。

装備レビュー:チームで共有するライトと地図

今回のレースで改めて重要性を感じたのは、夜間ナビゲーションにおけるライトと地図の扱いでした。

ヘッドライト: 私が使用した高出力ヘッドライトは、広範囲を明るく照らし、地形の起伏を捉えるのに役立ちました。しかし、長時間使用するとバッテリーの消耗が早く、予備バッテリーの交換には手こずる場面がありました。チームで同じ種類のライトを使用している場合、バッテリーの互換性や充電計画をしっかり立てておくことが重要です。また、メンバー間で異なる配光パターンのライトを持つことで、近距離の地図確認用と遠距離の地形把握用で使い分けるのも有効だと感じました。疲労下では、細かい操作が煩わしくなるため、シンプルなインターフェースのライトが望ましいです。

地図とコンパス: 今回のレースでは、主催者提供の防水加工された地図を使用しました。耐久性は十分でしたが、長時間水に濡れたり、折り畳みを繰り返したりすることで、細かい等高線や植生記号が見えにくくなる箇所がありました。地図を保護するためのクリアケースや、夜間でも見やすいマーカー、そして予備の地図を持参することの重要性を再認識しました。また、疲労で地図を読むのが困難になった場合に備え、他のメンバーがすぐにナビゲーションを引き継げるよう、常に全員が現在地を把握しておく努力が必要です。チームで同じ縮尺の地図を複数枚持ち、セクションごとに分担して管理するなどの工夫も考えられます。

まとめ

ミストバレー24時間アドベンチャーは、私たちのチームにとって、身体的な限界への挑戦であると同時に、チームとしての成熟度を試されるレースでした。特に疲労困憊下でのチーム意思決定と役割分担の難しさ、そしてその重要性を改めて認識する機会となりました。

レース中の判断は、個々の能力だけでなく、チーム内のコミュニケーションの質、互いへの信頼、そして事前にどれだけ具体的なシミュレーションとルール作りができていたかに大きく左右されます。今回の反省を活かし、次のレースでは、より柔軟で効果的な役割分担、そして疲労やストレスが高まる状況でも機能する意思決定プロセスを確立することを目指します。

アドベンチャーレースは、単に速く移動することだけでなく、予期せぬ状況への適応力、困難な状況でのチームワーク、そして自身の限界との向き合い方が試される競技です。今回の学びが、読者の皆様自身のレース活動におけるチーム連携や意思決定プロセスの改善に繋がる一助となれば幸いです。