リバーサイドエンデュランス レースレポート:湿潤・水辺環境下での装備選択と体調管理の検証
はじめに:湿潤・水辺環境が特徴のリバーサイドエンデュランス
今回参加したリバーサイドエンデュランスは、その名の通りコースの大部分が河川沿いや湿地帯を通過する、湿潤・水辺環境が色濃く反映されるアドベンチャーレースでした。過去にも雨中のレースや渡渉を含む大会経験はありましたが、これほど長距離にわたり高湿度かつ水に触れる機会が多いレースは初めてであり、装備選択や体調管理、そしてそれに基づく判断がレース結果に大きく影響すると予想されました。この記事では、この特殊な環境下でのレース参加レポート、具体的な判断とその結果、詳細な振り返り、そして次に活かすための具体的な改善策や装備に関するレビューを共有します。特に、湿潤環境における課題克服に関心のある読者の参考になれば幸いです。
レース前の準備:湿潤対策を最優先にした戦略
リバーサイドエンデュランスへの準備において、最大の焦点は湿潤環境への対応でした。予報ではレース中の降水は少ない見込みでしたが、コース特性からシューズやウェアが常に濡れる可能性があると判断しました。
戦略と目標: 基本的なペース配分は通常のロングレースに準じましたが、濡れによる体温低下リスクを考慮し、こまめな体温チェックと必要に応じたウェア調整を行う戦略を立てました。目標は、完走はもちろんですが、過去の同距離レースと比較して、湿潤環境によるパフォーマンス低下を最小限に抑えることとしました。
装備選択とその理由: 装備選択は、通常のレース装備に加えて徹底した湿潤対策を施しました。
- ウェア: 速乾性と保温性を兼ね備えたベースレイヤーとミッドレイヤー。シェルは軽量で透湿性の高いものを選び、特に水濡れ対策として下半身の防水・撥水性能が高いパンツを重視しました。
- シューズ: 水抜けが良く、濡れた岩や根でもグリップ力が高いトレイルランニングシューズを選びました。長時間の濡れによる皮膚トラブル(ふやけ、まめ)対策として、撥水性のある厚手のソックスと、予備のソックスを複数準備しました。
- バックパック: 本体が完全防水ではないため、内部に大型のドライバッグを入れ、替えのウェアやエマージェンシーキット、補給食などを収納しました。頻繁に使用するものは防水性の高いスタッフサックに入れ、すぐに取り出せるようにしました。
- 補給食: 濡れても品質が劣化しにくいジェルや固形食を中心に構成し、包装が破れないよう慎重にパッキングしました。一部の補給食はジップロックに入れ、防水性を高めました。
- ライト: ヘッドライトは防水性能(IPX評価)の高いものを選びました。予備バッテリーも防水ケースに収納しました。
- ナビゲーションツール: 地図は防水加工されたものを使用し、さらに防水マップケースに入れました。コンパスも防水仕様です。GPSウォッチは防水ですが、濡れた手での操作性を確認しました。
なぜこれらの選択をしたのか、意図は明確でした。通常の乾燥した環境とは異なり、一度濡れると乾きにくく、体温低下や皮膚トラブルのリスクが高まります。これらの装備は、体をドライに保つ、濡れてもパフォーマンスを維持する、そして万が一のトラブルに備えるという観点から選びました。特にソックスとドライバッグの複数準備は、過去の濡れによる失敗経験から得た教訓に基づいています。
レース中の詳細:湿潤環境との戦い
スタートから予想通り、コースは水辺を何度も通過し、トレイルも湿っています。常時、シューズの中は濡れた状態が続きました。
ナビゲーション: 水辺沿いや湿地帯でのナビゲーションは、通常の地形図判読とは異なる注意が必要でした。特に、等高線だけでは判断しにくい微地形(小さな起伏や溝)が湿地になっている場合があり、地図上の情報と実際の地表の状況が一致しないことがありました。ルート選択では、多少遠回りになっても水深が浅いと思われる箇所や、しっかりした地表を選びました。迷いそうになった際は、焦らず立ち止まり、コンパスと地形を再確認しました。濡れた地図は扱いにくく、風で煽られたり破れたりしないよう、慎重にマップケースから出し入れする必要がありました。特定のチェックポイント(CP)へのアプローチでは、沢沿いの踏み跡を利用する判断をしましたが、沢の増水状況を読み違え、予想以上に深い渡渉を強いられる場面もありました。
チーム連携: チーム内では、互いの体調、特に寒さを感じていないか、皮膚に異常がないかなどを常に確認し合いました。一人が寒さを訴えた際には、すぐに雨具や追加のミッドレイヤーを着用させ、休憩場所の選定も風通しの少ない場所にするなどの配慮を行いました。また、濡れた状態での作業(地図の確認や補給)は手がかじかむため、お互いにサポートし合いました。困難な渡渉箇所では、安全確認を徹底し、ロープを使用したり、一人ずつ確実に渡るように声かけを行いました。
装備・補給: 防水ウェアは、小雨や水しぶき程度であれば効果を発揮しましたが、長時間の渡渉や湿度には限界があり、内部が蒸れることもありました。シューズは水抜けは良かったものの、一度入った水は完全には抜けず、ソックスは常に湿った状態でした。予備のソックスに交換するタイミングが難しく、結局レース中に一度しか交換できませんでした。バックパック内のドライバッグは完璧に機能し、中の装備はドライに保てました。補給食は濡れに強いものを選んだため、摂取には問題ありませんでしたが、冷えた体での固形食の摂取は効率が悪く感じられました。特に、濡れた状態での行動が続くと、予想以上に体力を消耗し、補給のペースを上げる必要がありました。
体力・精神面: 濡れた状態での行動は、体力の消耗が激しく、特に下半身は冷えを感じやすかったです。疲労困憊時でも、体温低下はパフォーマンスに直結するため、意識的に体を動かし続け、寒さを感じたら早めにウェア調整を行うようにしました。精神的には、常に体が濡れているという不快感が続きましたが、チームメンバーとのポジティブな声かけや、目標達成への意識を共有することで、モチベーションを維持しました。予期せぬ深い渡渉など、計画外の状況でも冷静さを保ち、リスクを評価し安全な行動を選択することを心がけました。
判断とその結果: * 渡渉のタイミングと方法: 沢の増水状況を読み違え、リスクの高い渡渉を選択した結果、体力と時間を無駄にしました。安全側の判断(迂回や浅い場所の探索)を徹底すべきでした。 * 休憩場所の選択: 風通しの良い場所で休憩した際、すぐに体が冷え始めました。湿潤環境下では、風を防げる場所、可能であれば焚き火などができる場所を選ぶべきでした(レース規定による)。 * 装備の着脱判断: 体が温まってきた際にシェルを脱ぎましたが、すぐに体が冷え始め、再度着用する手間が発生しました。湿潤環境では、少しオーバーヒート気味でも、濡れたベースレイヤーによる冷えを防ぐためにシェルを着用し続ける方が良い場合があると学びました。 * 濡れた状態での行動ペース: 濡れている不快感からペースを上げがちになりましたが、すぐに体力を消耗しました。濡れていても落ち着いて、一定のペースを維持する重要性を再認識しました。
詳細な振り返りと分析:湿潤環境レースの課題
リバーサイドエンデュランスを終えて、湿潤・水辺環境におけるアドベンチャーレースの特性と自身の課題が明確になりました。
成功要因: * バックパック内部のドライバッグによる主要装備の防水対策は非常に有効でした。 * チーム内での体調確認と相互サポートは、困難な状況を乗り越える上で不可欠でした。 * 濡れに強い補給食の選択は正しく、補給計画自体は概ね遂行できました。
失敗要因: * 装備の不十分さ: シューズ内の水を効率的に排出できなかったこと、濡れた状態での体温維持に苦労したことが最大の課題です。特に足元の快適性が失われたことは、全体のパフォーマンスに大きく影響しました。 * ナビゲーション判断の甘さ: 水辺や湿地帯における地形判読とリスク評価が甘く、非効率なルートやリスクの高い渡渉を選択してしまいました。 * 体調管理の難しさ: 濡れた状態での体温低下や、それに伴う疲労の蓄積への対応が不十分でした。 * 精神的な課題: 不快な状況が続くことによる精神的な消耗があり、冷静な判断力が一部で低下しました。
読者への学び: 湿潤・水辺環境でのレースでは、以下の点が特に重要だと考えられます。
- 徹底した防水対策: バックパックの中身だけでなく、ウェア、シューズ、補給食など、可能な限り濡れを防ぐ、あるいは濡れても機能が維持される装備選択が不可欠です。
- 体温管理の意識: 濡れによる体温低下は想像以上に早く、パフォーマンス低下や低体温症のリスクを高めます。レイヤリングによる調整、濡れた場合の対応策を事前に検討しておく必要があります。
- 水辺のナビゲーション: 地図上の情報だけでなく、実際の水の流れや深さ、地表の状況を慎重に判断する必要があります。無理な渡渉は避ける勇気も重要です。
- 精神的な準備: 不快な状況が続くことを想定し、それを乗り越えるための精神的な準備(チームでの声かけ、目標の再確認など)が重要になります。
装備レビュー:湿潤環境下でのリアルな使用感
今回のレースで使用した装備の中から、湿潤環境下での使用感が特に参考になりそうなものをいくつかレビューします。
- 防水シェルジャケット/パンツ: 軽量で透湿性も高かったのですが、長時間の濡れや高湿度下ではやはり内側が蒸れました。完全に浸水を防ぐというよりは、風や小雨を防ぎ、ベースレイヤーの濡れを遅らせる効果が大きいと感じました。より高い防水性と透湿性のバランス、あるいは積極的にベンチレーション機能を使えるモデルの検討が必要です。
- トレイルランニングシューズ(水抜け重視モデル): 水抜け性能は確かにある程度効果を発揮しましたが、やはりシューズ内に一度水が入ると完全には抜けず、ソックスが常に濡れた状態が続きました。これは多くのシューズに共通する課題かもしれません。濡れた岩や根でのグリップは概ね良好でしたが、一部の泥濘地では滑りやすさを感じました。
- 防水バックパック内部ドライバッグ: これは期待通りの性能でした。バックパック本体がどれだけ濡れても、内部のドライバッグのおかげで替えのウェアや貴重品は完全にドライに保たれました。容量に余裕を持ったサイズ選びが重要です。
- 防水マップケース: 濡れた地図を保護する上で必須のアイテムです。ただし、ケース越しに地図を読む際の反射や視認性、また濡れた手での開閉や操作性には課題を感じました。より使いやすい、あるいは複数の地図を効率的に管理できる工夫が必要かもしれません。
- 撥水ソックス: 厚手のソックスはクッション性や保温性に優れますが、一度濡れると乾きにくく、重く感じられました。撥水効果は限定的で、やはりシューズ内の水の処理が重要だと再認識しました。
具体的な改善策:次の湿潤レースに向けて
今回のリバーサイドエンデュランスでの経験を踏まえ、次に湿潤・水辺環境のレースに参加する際には、以下の具体的な改善策を実行する計画です。
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装備の再検討とアップデート:
- シューズ: 水抜けだけでなく、シューズ内に水が入りにくい構造(ゲイター一体型など)や、乾きやすい素材のシューズがないか調査します。また、足のふやけ対策として、より効果的なソックス(防水ソックスなど)や、足裏へのテーピング方法などを研究し、事前のテストランで試します。
- ウェア: レイヤリングを見直し、特にベースレイヤーの選択と、ミッドレイヤー・シェルの組み合わせで、濡れた状態でも体温を維持しやすい最適な組み合わせを見つけます。可能であれば、体幹部だけでも濡れを防ぐことができるウェアを検討します。
- 防水・収納: マップケースは、より反射が少なく、複数枚の地図を効率的に管理できるものを探します。補給食や小物は、個別に小型の防水バッグやジップロックに入れ、バックパック内のアクセス性を高める工夫をします。
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練習方法の改善:
- ウェット状態での行動練習: 意図的にシューズやウェアを濡らした状態で、短時間のトレイルランやハイキングを行い、装備の性能や体温変化を体感します。
- 水辺・湿地帯ナビゲーション練習: 地図とコンパス、GPSを使い、水辺沿いや湿地帯が点在するエリアでナビゲーション練習を行い、地形判読とリスク評価の精度を高めます。特に、増水時の渡渉判断練習も可能な範囲で行います。
- 体温調節能力向上: 寒い時期に薄着で短時間運動するなど、意図的に体を冷やす経験を通じて、体温調節能力を高めるトレーニングを取り入れます(無理のない範囲で専門家指導のもと)。
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レース中の思考プロセス・判断基準の見直し:
- 水辺や湿地帯におけるルート選択、渡渉判断については、安全側をより重視する明確な基準を設けます。
- 体調、特に寒さや濡れによる不快感に対して、冷静に状況を分析し、感情に流されず適切な判断(休憩、ウェア調整、補給など)ができるように、シミュレーションやメンタルトレーニングを行います。
- 濡れた状態での休憩方法や、短い時間で効率的に体を温める方法を事前に調べておきます。
まとめ:湿潤環境レースから得た重要な学び
リバーサイドエンデュランスは、湿潤・水辺環境という特定の条件下でのアドベンチャーレースの難しさ、そしてそこで重要となる装備選択、体調管理、ナビゲーション判断、チーム連携のあり方を改めて学ぶ貴重な機会となりました。特に、体が濡れているという不快な状況下で、いかにパフォーマンスを維持し、冷静な判断を下せるかが鍵であることを痛感しました。
今回の失敗や成功体験を通じて得られた学びは、湿潤環境に限らず、様々な悪条件下でのレースに共通する部分も多いと考えられます。読者の皆様も、ご自身のレース経験を振り返る際に、特定の環境下(暑熱、寒冷、夜間など)でのご自身の課題や、そこから得られる学びを深く掘り下げてみることをお勧めします。具体的な失敗から目を背けず、それを次に活かすための具体的な行動計画を立てることこそが、アドベンチャーレースにおける自己成長の糧となるものと信じています。