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計画通りに進まないレース中盤:アドベンチャーレースにおける戦略的判断と軌道修正

Tags: 戦略見直し, 計画変更, レース判断, チーム連携, レースレポート

アドベンチャーレースにおいて、事前の計画は非常に重要です。ルート、ペース配分、補給、休息など、緻密な計画を立てることで、目標達成の可能性は高まります。しかし、どれだけ準備を重ねても、レースが計画通りに進むことは稀であり、特に中盤以降、疲労が蓄積するにつれて、当初の計画との乖離が大きくなる場面に直面することが多くあります。

本稿では、過去に参加したある36時間のアドベンチャーレースでの経験を基に、計画通りに進まなくなったレース中盤において、チームとしてどのように状況を判断し、戦略を軌道修正したのか、その過程とそこから得られた学びを詳細にレポートします。単なる体験談としてではなく、読者の皆様が自身のレースで活かせる具体的なヒントを見つけていただければ幸いです。

レース前の準備と当初の計画

対象としたレースは、変化に富んだ地形(山岳、森林、川、一部ロード)を含む36時間のアドベンチャーレースでした。チームは4名で参加し、目標は上位30%以内での完走を設定しました。

事前の計画では、全体の想定所要時間から逆算し、各セクションの通過目標タイムを設定しました。特に、ナイトセクションと、後半に待ち構える長大なトレッキングセクションに重点を置き、そこでのペース維持とナビゲーション精度が鍵になると考えていました。補給はチェックポイントごとに計画し、必要に応じて予備の食料を携行する戦略でした。休息については、必要最小限に抑える方針で、特に中盤から後半にかけての仮眠は最大で1時間程度と想定していました。

装備選択においては、想定される気温変化(日中の高温、夜間の冷え込み)と、ウェットコンディションへの対応を考慮しました。特に、夜間の視界確保と、長時間の行動に耐えうるフットウェア選びには時間をかけました。チーム内では、ナビゲーション担当、ペース管理担当、補給担当といった大まかな役割分担を決め、緊急時の対応フローについても事前に確認を行いました。

レース中の詳細な経過と判断

スタートは順調でした。最初のバイクセクションは計画通りのペースで進行し、ナビゲーションも正確に行えました。しかし、最初のトレッキングセクションに入って間もなく、地形図では読み取れなかった藪漕ぎ区間が想定以上に長く続き、ここで計画から約1時間半の遅れが生じました。

この時点で、チーム内には焦りの色が見え始めましたが、「まだ序盤であり、十分に挽回のチャンスはある」と考え、大きな計画変更は行わず、ペースを少し上げることで遅れを取り戻す方針を採りました。しかし、これが裏目に出ました。ペースを上げたことで、ナビゲーション担当の集中力が低下し、次のチェックポイントへのアプローチで細かなミスが発生し、さらに時間をロスすることになったのです。

夜間に入り、レースは中盤に差し掛かりました。当初の計画では、この時点で特定のチェックポイントを通過しているはずでしたが、実際の現在地はそこから数時間遅れていました。疲労も蓄積し始め、特に脚部の疲労が顕著になっていました。

チーム内で状況を共有しました。このまま当初の計画に固執し、無理にペースを上げようとすると、さらなるナビゲーションミスや怪我のリスクが高まるという共通認識に至りました。ここで、計画の抜本的な見直しが必要であると判断しました。

具体的な軌道修正の判断として、以下の点を検討・実行しました。

  1. 目標タイムの再設定: 当初の目標タイムでの完走は困難であると認め、現実的な完走目標タイムを再設定しました。これにより、過度な焦りから解放され、落ち着いて行動できるようになりました。
  2. ルートの再検討: 一部のテクニカルなルートは、時間と体力を考慮し、比較的走行・歩行しやすいが距離は少し長くなる代替ルートに変更しました。これは、遅れを取り戻すよりも、確実に次に進むことを優先する判断でした。
  3. 休息・仮眠戦略の変更: 当初予定していなかった場所での短時間の仮眠を、チーム全員で取ることにしました。これは、疲労困憊下での判断力低下を防ぐための投資と考えました。約30分程度の仮眠でしたが、その後の行動精度に positive な影響があったと感じています。
  4. 補給戦略の微調整: 行動時間が長くなることを想定し、携行している予備の食料を消費するタイミングを早める判断をしました。また、水分補給も計画よりも意識的に行うようにチーム内で声かけを強化しました。
  5. チーム内コミュニケーションの強化: 疲労下では、些細なことでチーム内の雰囲気が悪化するリスクがあります。意識的にポジティブな声かけを行い、互いの体調や精神状態を確認し合う頻度を増やしました。ナビゲーションの判断についても、以前よりも頻繁に複数人で確認し合うようにしました。

これらの判断と行動の結果、ペースは当初より落ちましたが、ナビゲーションミスは減少し、チームとしての一体感を保つことができました。特に、短い仮眠がその後の行動に与えた positive な影響は大きく、疲労による判断力の低下を一時的に改善することができたと感じています。最終的に目標タイムでの完走は叶いませんでしたが、全員が無事にフィニッシュすることができました。

詳細な振り返りと分析

今回のレースにおける中盤での計画変更は、結果として完走に繋がった重要な判断であったと分析しています。

成功要因としては、以下の点が挙げられます。

一方、失敗要因および課題としては、以下の点が挙げられます。

これらの成功や失敗から、読者の皆様への学びとして、以下の点を強調したいと考えます。

装備レビュー

今回のレースを通じて、改めてその重要性を感じた装備についていくつかレビューします。

具体的な改善策

今回の経験を踏まえ、次に参加するレースに向けて、以下の具体的な改善策を実行する計画です。

  1. 計画段階でのリスクシナリオ想定: 事前の計画において、理想的な展開だけでなく、計画通りに進まなかった場合の複数のリスクシナリオ(例: ナビゲーションミスによる大幅な遅延、メンバーの体調不良、悪天候)を具体的に想定し、それぞれのシナリオに対する大まかな対応策を事前に検討しておきます。
  2. ナビゲーション精度の向上練習: 疲労下でも地形図やコンパスを正確に扱えるよう、長時間の練習や、意図的に疲労させた状態でのナビゲーション練習を取り入れます。また、地形図から得られる情報だけでなく、実際の地形を観察するスキルをさらに磨きます。
  3. チームでの判断シミュレーション: レース前に、過去の失敗事例や想定される困難な状況について、チーム内でシミュレーションを行います。「もしここで〇時間遅れたらどう判断するか」「メンバーの一人が動けなくなったらどうするか」といった具体的な問いを立て、判断プロセスと役割分担を確認します。
  4. 体調管理と補給の最適化: 長時間行動に対する身体の反応をより深く理解するため、トレーニング中の補給や休息のタイミングと効果を記録し、自分にとって最適な戦略を構築します。特に、消化器系トラブルを防ぐための補給食の組み合わせや摂取方法について、いくつかのパターンを試します。

まとめ

アドベンチャーレースは、事前の計画力だけでなく、レース中の状況変化に対する適応力と柔軟な判断が非常に重要となる競技です。特にレース中盤以降、疲労が蓄積する中で計画通りに進まなくなった状況は、真価が問われる場面と言えます。

今回の経験から得られた最も重要な学びは、「計画はあくまで出発点であり、レース中は常に現在の状況を正確に把握し、チームで共有し、柔軟に戦略を軌道修正する勇気と能力が必要である」という点です。困難な状況に直面した際に、焦らず、しかし迅速に状況を分析し、現実的な最善策を選択する判断力が、完走、そして次への成長に繋がります。この経験を糧に、今後のレース活動においても、計画性と柔軟性を兼ね備えたアプローチを追求して参ります。