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ナイトホークチャレンジ レースレポート:レース中の睡眠戦略と判断力の維持・低下の検証

Tags: 睡眠戦略, 判断力, ロングレース, アドベンチャーレース, レースレポート

アドベンチャーレースにおける長時間の行動は、体力だけでなく、集中力や判断力の維持が非常に重要になります。特に、24時間以上のレースでは、睡眠をどのようにマネジメントするかがパフォーマンスに大きく影響します。今回は、48時間で開催された「ナイトホークチャレンジ」への参加を通じて、私自身が試みた睡眠戦略と、それがレース中の判断力にどのような影響を与えたのかを詳細に振り返り、次への具体的な学びを共有いたします。

ナイトホークチャレンジは、山岳トレッキング、マウンテンバイク、カヤックを組み合わせた形式で、複数のチェックポイントを制限時間内に通過しながら進む大会です。特に夜間のナビゲーションや、疲労困憊時における正確な判断が求められる、挑戦的なレースでした。

レース前の準備:睡眠戦略の立案と目標設定

今回のナイトホークチャレンジに臨むにあたり、チームとして最も重視した準備の一つが「睡眠戦略」の立案でした。過去のロングレース経験から、睡眠不足がナビゲーションミスやチーム内のコミュニケーション齟齬の最大の原因となることを痛感していたためです。

目標は、単に完走するだけでなく、可能な限りミスを減らし、安定したペースを維持することに置きました。そのため、睡眠戦略としては、以下の2つの選択肢を検討しました。

  1. 短時間仮眠の複数回実施: 疲労のピークを感じる前に、1回あたり15~30分程度の仮眠を2~3回に分けて取る。これにより、深い眠りに入りすぎず、覚醒しやすい状態を保つ。
  2. まとまった睡眠の1回実施: レース中盤、特に夜間から朝方にかけて、戦略的に2時間程度の睡眠時間を確保する。これにより、脳と体の疲労をある程度回復させる。

チームで議論した結果、今回は「短時間仮眠の複数回実施」を基本戦略とすることにしました。その理由は、48時間というレース時間に対して、まとまった睡眠時間(例えば2時間)を確保すると、それだけ進行が遅れるリスクがあること、そして過去のレースで短時間仮眠でも一定の効果を感じていたためです。具体的な計画として、レース開始後24時間経過を目安に一度目の仮眠(20分)、その後必要に応じて二度目の仮眠(20分)を検討することとしました。仮眠場所は、比較的安全で風雨を避けられる場所を、マップ上で事前にいくつか候補を挙げておきました。

装備選択においても、この睡眠戦略を意識しました。短い仮眠時間で効率的に休むために、軽量で素早く設営・撤収できるツェルトと、単体でも保温力があり、かつ防風・防水性のあるシュラフカバーを携行することにしました。これにより、ビバーク装備による重量増を最小限に抑えつつ、最低限の快適性を確保できると考えたためです。

レース中の詳細:睡眠戦略の実践とその結果

スタートから最初の夜間まで(0時間~18時間): レースは順調にスタートし、最初のトレッキング、バイクセクションを予定通りのペースで進行しました。日中は集中力を維持でき、ナビゲーションも概ね正確でした。夜間に入り、気温が低下するにつれて疲労を感じ始めましたが、まだ仮眠を取る必要は感じていませんでした。ナビゲーションにおいては、ヘッドライトに頼る区間が増え、遠距離の地形判断が難しくなりましたが、チーム内で役割分担を行い、確認を重ねながら進みました。

最初の夜間から夜明けにかけて(18時間~28時間): レース開始後22時間頃、最初の疲労のピークが訪れました。体の怠さに加え、単純な計算ミスや方向感覚のずれが生じ始めました。チーム内で話し合い、計画通りここで最初の仮眠を取ることを決定しました。候補地の中から、風を避けられる広めの岩陰を見つけ、ツェルトを設営し、3人全員で20分間の仮眠を取りました。 この20分間の仮眠は、期待以上の効果を発揮しました。目が覚めたとき、体の重さが軽減され、特に頭がクリアになった感覚がありました。ナビゲーションにおいても、地図上の情報と実際の地形を結びつける精度が明らかに向上しました。仮眠場所の選択も奏功し、冷え込む夜間でも比較的快適に休むことができました。

二日目の日中から二回目の夜間(28時間~40時間): 仮眠の効果で再びペースを上げることができ、難易度の高いナビゲーションセクションも比較的スムーズにクリアしました。しかし、二日目の午後になると、再び疲労が蓄積し始めました。特に、連続する登りセクションでは足取りが重くなり、チーム内の会話も減ってきました。 二回目の夜間に入り、計画していた二度目の仮眠のタイミングを検討しました。しかし、この時、次のチェックポイントまでの距離が比較的短く、かつ制限時間も迫っていたため、チーム内で「ここで休むより、チェックポイントまで行ってからの方が効率的ではないか」という意見が出ました。疲労による判断力の低下があったのかもしれません。私自身も、少しの頑張りで先に進めるなら、という気持ちが優勢になり、ここで仮眠を取るという当初の計画を変更し、進行を優先するという判断をしました。

二回目の夜間終盤からフィニッシュまで(40時間~48時間): 仮眠を取らなかった判断は、すぐに悪影響を及ぼし始めました。疲労と睡眠不足により、集中力は著しく低下しました。最も顕著だったのはナビゲーションです。簡単な尾根のアップダウンを読み間違えたり、コンパスのベアリング確認を怠ったりといったミスが頻発しました。特に、等高線の緩やかな斜面での細かいルートファインディングで迷うことが増え、大きくタイムロスをしてしまいました。 また、チーム内のコミュニケーションも円滑さを欠くようになりました。疲労からくる苛立ちやネガティブな発言が増え、建設的な議論が難しくなりました。お互いをサポートする余裕がなくなり、各自が自分の疲労と戦うのに精一杯という状態でした。 フィニッシュまであと数時間というところで、チームの一人が強い眠気に襲われ、立ち止まってうずくまってしまう事態が発生しました。ここでようやく、進行を優先した判断が誤りであったことを痛感しました。急遽、短時間ですが座り込んで目を閉じる休憩を取りましたが、計画的な仮眠の効果には遠く及びませんでした。結局、終盤のナビゲーションミスとペースダウンにより、目標タイムを大幅に超えてフィニッシュすることとなりました。

詳細な振り返りと分析

今回のナイトホークチャレンジを振り返ると、睡眠戦略の重要性を改めて強く認識しました。

成功要因:

失敗要因:

読者への学び:

装備レビュー:睡眠とパフォーマンスを支えたギア

今回のレースで使用した装備の中から、特に睡眠や疲労管理に関連して有効だった、あるいは課題を感じたものをレビューします。

具体的な改善策:次戦に向けて

今回の経験を踏まえ、次のロングレースに向けて以下の具体的な改善策に取り組みます。

  1. 睡眠負債の解消: レース前1週間は、普段よりも意識して十分な睡眠時間を確保し、睡眠負債をゼロの状態にしてレースに臨みます。
  2. 短時間仮眠の練習: 日常生活の中で、昼間などに15~20分程度の短時間仮眠を取り入れ、素早く眠りに入り、すっきり目覚める練習を行います。アラーム設定の工夫なども試みます。
  3. 睡眠戦略のチーム内再確認: 次戦のチームメンバーと、睡眠戦略の重要性、仮眠のタイミング、場所、声かけの方法などを具体的に再確認し、共通認識を持ちます。疲労困憊時でも、チームのルールとして仮眠を優先する、といった取り決めを行うことも検討します。
  4. カフェイン戦略の検討: カフェインの効果とリスク(離脱症状、その後の疲労増悪)を理解した上で、計画的にカフェインを摂取するタイミング(例: 覚醒したい時間帯の30分前)を検討します。ただし、過度な依存は避けます。
  5. 疲労困憊時の判断プロセス設定: チーム内で、極度に疲れていると感じた場合に、どのように状況を評価し、判断を下すかについての簡単なプロセスを定めます。例えば、「重要な判断(ルート変更、仮眠、エスケープ)は、最低〇分立ち止まり、全員で意見を出し合ってから決定する」といったルールです。

まとめ

ナイトホークチャレンジでの経験は、ロングアドベンチャーレースにおける睡眠戦略と判断力の関係性について、非常に貴重な学びを与えてくれました。計画的な短時間仮眠はパフォーマンス向上に寄与しますが、疲労困憊時の判断力の低下は、その効果を打ち消すどころか、レース全体の破綻を招く可能性があります。

体力や技術だけでなく、自身の、そしてチームメイトの心身の状態を正確に把握し、状況に応じた冷静かつ合理的な判断を下す能力こそが、ロングアドベンチャーレース完遂、そして目標達成の鍵となります。今回の反省を活かし、次戦ではより洗練された睡眠戦略と、疲労下での判断力を磨き、挑戦を続けていきたいと考えております。このレポートが、読者の皆様のレース活動における睡眠マネジメントや判断力向上の一助となれば幸いです。