混在地形ナビゲーションの落とし穴:都市部から自然へ移行するセクションでの判断ミスと教訓
私のレースログへようこそ。
今回は、先日参加した「サウスショア・クロスオーバー」という大会のレースレポートを詳細に分析し、特に都市部から自然環境へ移行するセクションでのナビゲーション判断と、そこで見られた課題について深く掘り下げていきます。このレースは、スタート直後の数時間を都市部で進行し、その後広大な森林地帯と河川を含む自然エリアへと舞台を移す、環境変化が特徴的な大会でした。このような混在地形のレースは、それぞれの環境に適したナビゲーションスキルと、迅速な戦略の切り替えが求められます。
この記事では、レース中の具体的な判断プロセスとその結果、そしてそこから導き出される次への教訓を、読者の皆様のレース活動に役立つ形で共有したいと考えています。
レース前の準備:異なる環境への適応戦略
サウスショア・クロスオーバーは、約24時間のミドルレース形式で、トレッキング、MTB、パドル、ナビゲーションが主要パートです。都市部と自然のエリアが明確に分かれているため、レース前の準備段階から、それぞれの環境特性に合わせた戦略立案が重要でした。
ナビゲーション戦略: 都市部では、建物の配置、道路網、公園、人工的な目印(POI)などが主要な要素となります。ここでは地図上の最短ルート選定能力、そして正確なPOI探索が求められます。対照的に、自然エリアでは地形、植生、水系、コンターラインなどが中心となり、コンパスワークや地形読図の精度が重要になります。 今回のレースでは、特に都市部から自然エリアへの遷移地点が、地形図上の等高線変化に乏しく、かつ植生も密なエリアに設定されていました。この遷移をスムーズに行うため、事前にこのエリアの航空写真や過去の地形図、ストリートビューなども参照し、起こりうる課題(例:地図上の道と現実の状況の乖離、密な植生による視界の制限)を予測していました。しかし、この予測の甘さがレース中に露呈することになります。
装備選択: 都市部と自然環境の両方に対応できる装備を意識しました。 * シューズ: 舗装路での走行性能と不整地でのグリップ力、足裏保護を両立できるモデルを選択しました。 * ライト: 都市部の街灯があるエリアと、自然エリアの完全な暗闇の両方に対応するため、明るさの調整幅が広く、かつ照射範囲を切り替えられるヘッドライトを選びました。都市部では狭角・低光量、自然部では広角・高光量といった使い分けを想定しました。 * 地図ケース: 都市部での素早い地図確認と、自然エリアでの保護を兼ねるため、軽量で視認性の高い防水地図ケースを使用しました。 * 補給食: 都市部では比較的アクセスしやすい補給ポイントも利用可能ですが、自然エリアでは自己完結が必須です。エネルギー切れを防ぐため、多様な形態の補給食(ジェル、固形食、サプリメント)をバランス良く準備しました。特に、疲労困憊時でも摂りやすいジェルタイプを多めに、自然エリアでの行動時間に合わせて分散して携行しました。
チーム調整: チームメンバー間では、それぞれの得意分野(例:都市部ナビゲーションが得意なメンバー、自然部ナビゲーションが得意なメンバー)を事前に確認し、セクションごとの役割分担を明確にしていました。特に、環境が切り替わる地点でのナビゲーション担当を事前に指定し、スムーズな移行を図る計画でした。
レース中の詳細:遷移区間での判断と課題
レースは都市部のトレッキングからスタートしました。事前の想定通り、密集した道路網と多数のPOIを縫うように進みます。ここでは、地図アプリを併用した位置確認が非常に有効でした。建物の陰や視界を遮るものが多いため、細かな方向修正が頻繁に必要でしたが、チームメンバーとの声かけと、地図上の目印を正確に捉えることで、大きなミスなく進行できました。
課題が発生したのは、都市部を抜け出し、自然エリアへ入った直後のトレッキングセクションでした。地図上では緩やかな丘陵地帯で、疎らな植生と一部に古い林道が示されていました。しかし、実際の現場は、地図上の林道は完全に藪に覆われ、植生も予想以上に密で、視界がほとんど利きませんでした。
この状況で、私たちは当初の計画通り、林道跡を辿ることを試みました。しかし、地面には明確な痕跡がなく、進行方向を示す目印もほとんど見当たりません。事前にチェックしていた遷移地点のCP(チェックポイント)までの方向をコンパスで確認し、直進を試みましたが、密な植生に進路を阻まれ、迂回を繰り返すことになりました。
判断とその結果: * 判断: 地図上の林道跡を信じ、密な藪の中を強引に進もうとした。 * なぜそう判断したのか: 事前準備で林道跡の存在を確認しており、最短距離でCPへ向かえると考えたため。また、都市部ナビゲーションの成功体験から、地図上の情報を過信していた側面があったかもしれません。 * 結果: 進行速度が極端に低下し、体力を消耗しました。また、密な植生の中で方向を見失いかけ、地図とコンパスで現在地を再確認するのに時間を要しました。結果として、この区間で想定以上のタイムロスが発生しました。
チーム内では、ナビゲーション担当のメンバーが「林道跡が見つからない」「コンパスで方向は合っているはずだが、進めない」と困惑し、他のメンバーも「どこへ行けば良いのか」「本当にこの方向で合っているのか」と不安が高まりました。このような状況下で、立ち止まって冷静に状況を判断し、戦略を切り替える必要がありましたが、先行チームに追いつこうという焦りもあり、現状維持を選択してしまいました。
その後、別のチームが迂回して広めの尾根筋を進んでいるのを見て、自分たちのルート選択が誤りであったことに気づきました。急遽、進行方向を修正し、尾根筋を目指して移動を開始しました。この判断は正しく、尾根筋に出ると比較的開けており、歩きやすくなりました。しかし、既にタイムロスは大きく、心理的なダメージも無視できませんでした。
このセクションでの経験は、ナビゲーションにおける「地図情報の絶対性」への過信と、「現場の状況に応じた柔軟な判断」の重要性を痛感するものでした。特に、環境が急激に変化する場所では、事前の机上準備だけでなく、現地での五感を使った情報収集と、そこから導かれる判断が何より重要であることを学びました。
装備・補給: このセクションでは、密な藪を進む中で、ウェアの引っ掛かりや、ザックのダメージが懸念されました。装備自体に大きな破損はありませんでしたが、今後のレースでは、より藪漕ぎに強い素材のウェアや、補強されたザックの検討が必要かもしれません。 補給については、この区間で想定外の時間を要し、精神的なストレスも加わったため、予定よりも早めにエネルギーを消費しました。計画していた補給タイミングがずれたことで、次のセクションで補給不足を感じる場面もありました。
詳細な振り返りと分析:なぜ判断を誤ったのか
今回のレース、特に都市部から自然エリアへの遷移区間での判断ミスについて深く分析します。
成功要因: * 都市部でのナビゲーションは比較的スムーズに行えました。事前のPOIや道路網の分析が有効でした。 * チームメンバーの得意分野を活かした役割分担は、都市部では機能しました。 * 緊急時にルートを修正し、比較的早く正しいルートに戻れたことはポジティブな点でした。
失敗要因: * ナビゲーション判断の誤り: 地図上の情報(林道跡)に固執し、現場の状況(密な藪、林道跡の消失)を軽視しました。環境変化区間における地図情報の陳腐化リスクを十分に考慮できていませんでした。 * 事前の準備不足: 遷移区間の地形図・航空写真分析は行いましたが、実際の植生密度や地形変化の緩やかさを十分に予測できていませんでした。机上での情報収集には限界があることを再認識しました。 * チーム連携の課題: 困難な状況下で、ナビゲーション担当以外のメンバーが建設的な代替案を提示したり、立ち止まって冷静な議論を促したりすることができませんでした。焦りから、問題解決ではなく現状維持を選択してしまいました。 * 精神面: 先行チームへの焦りが、冷静な判断を妨げました。「早く進まなければ」という意識が、立ち止まって状況を再評価するという選択肢を排除してしまいました。
読者への学び: * 環境変化区間での注意喚起: 都市部から自然、あるいはその逆など、環境が大きく変化するセクションは特に注意が必要です。地図上の情報が現地の状況と異なる可能性を常に念頭に置き、五感(視覚、聴覚、触覚など)を使って情報を収集することが重要です。 * 地図情報の相対化: 地図はあくまで過去の状況を基にした情報です。特に自然環境では、植生の変化や道の消失などが頻繁に起こり得ます。地図上の情報と現地の状況に乖離がある場合は、現地情報を優先し、柔軟に判断を切り替える勇気が必要です。 * チームでのリスク評価と判断: 困難な状況に直面した際は、チーム全員で状況を共有し、リスクを評価し、代替案を検討する時間を設けるべきです。焦りや疲労で判断力が低下している可能性を考慮し、一人の判断に頼らず、複数の視点から状況を分析することが、重大なミスを防ぐことに繋がります。
具体的な改善策:次に活かすために
今回の反省点を踏まえ、次回の混在地形を含むアドベンチャーレースに向けて、以下の具体的な改善策を実行します。
- 遷移区間の詳細な机上分析とリスク想定:
- 対象レースの地図・地形図に加え、可能な限り最新の航空写真、オープンストリートマップ、過去のレース写真やSNS情報などを多角的に収集します。
- 特に環境変化が起こるセクションについては、想定される課題(例:地図上の道が消えている可能性、植生が密になっている可能性、水系が変化している可能性)を具体的にリストアップし、それぞれの課題が発生した場合の代替ルートや判断基準を事前にチームで議論します。
- 「現地情報優先」の判断基準設定:
- 地図上の情報と実際の状況に明確な乖離が見られた場合、どの程度の時間・労力をかけて地図上のルートを維持しようとするか、あるいはどの時点で「現地情報を優先してルートを再選定する」と判断するか、具体的な基準をチームで共有します。例えば、「藪の濃さで10分以上進めない場合は立ち止まって再検討する」といったルールを設けることも有効です。
- 困難状況下でのコミュニケーション訓練:
- 通常の練習において、意図的にナビゲーションが難しい状況を作り出し、チームメンバー全員で状況を共有し、代替案を出し合い、判断を下す訓練を行います。これにより、レース中のプレッシャー下でも冷静な議論ができるようにします。
- 多様な地形でのナビゲーション実践:
- 都市部、森林、河川沿い、藪地など、様々な地形を組み合わせたナビゲーション練習を意識的に行います。これにより、異なる環境への適応力と、環境変化に伴うナビゲーション戦略の切り替えスキルを向上させます。特に、地図上の情報が古かったり、現地状況と異なったりするような場所をあえて練習場所に選び、対応力を磨きます。
- 装備の見直し(検討事項):
- 藪漕ぎが多いレースを想定し、耐久性の高いウェアやザックの補強について検討します。
- 多様な環境で地図を保護しつつ、迅速に確認できる地図ケースの使い方を再検討します。
装備レビュー:混在地形レースでの評価
今回のレースで使用した装備の中から、特に混在地形レースにおける使用感をレビューします。
レビュー対象:A社製 マルチパーパスシューズ * 選定理由: 舗装路でのクッション性と不整地でのグリップ力を両立すると謳われていたため。 * 使用感: 都市部の舗装路では、十分なクッション性があり快適に走行できました。しかし、自然エリア、特に濡れた岩場や泥濘地では、謳われているほどのグリップ力が得られず、何度か滑りそうになる場面がありました。また、密な藪の中を進んだ際、アッパー素材の耐久性に若干の不安を感じました。今後、よりテクニカルな自然セクションを含むレースでは、不整地グリップに特化したシューズを選択するか、このシューズのアッパー補強を検討するかもしれません。 * 工夫点: レース直前に新しいインソールに交換し、足裏の疲労軽減を図りました。これは一定の効果があったと感じています。
レビュー対象:B社製 ワイドアングル対応ヘッドライト * 選定理由: 都市部の広範囲を照らすワイドアングルと、自然エリアで遠方を確認するスポットライト機能を切り替えられる点に魅力を感じたため。 * 使用感: 都市部ではワイドアングル機能が有効で、進行方向周辺の状況把握に役立ちました。自然エリアでのスポットライト機能も十分な光量があり、夜間ナビゲーションをサポートしてくれました。特に、遷移区間の暗闇で植生を掻き分ける際、足元や進行方向の状況を素早く確認できる点で非常に有用でした。バッテリー持ちも仕様通りで、概ね満足しています。 * 工夫点: 予備バッテリーを携行し、計画的に交換することで、常に最大の光量を維持できるよう努めました。また、操作しやすい位置に装着し、走行中でもモード切り替えが容易に行えるように調整しました。
レビュー対象:C社製 軽量防水地図ケース * 選定理由: 軽量かつ防水性があり、地図の出し入れがスムーズに行える点を重視しました。 * 使用感: 都市部では頻繁な地図確認が必要でしたが、透明度が高く、地図がずれにくい内部構造のため、ストレスなく使用できました。自然エリアでの藪漕ぎや雨天時にも地図を濡らすことなく、また破損の心配もありませんでした。携帯性も良く、非常に満足しています。 * 工夫点: ケース内に小さなスポンジを入れ、湿度による地図のシワを防ぐ工夫をしました。
まとめ:環境変化への適応力を高める
今回のサウスショア・クロスオーバーでの経験は、アドベンチャーレースにおける「環境変化への適応」の重要性を改めて教えてくれました。特に、都市部と自然エリアのように全く異なる環境が混在するレースでは、事前の机上準備に基づいた計画と、現場の状況に応じた柔軟な判断のバランスが非常に重要になります。
今回のナビゲーションミスは、地図上の情報を過信し、現場の状況を十分に読み取れなかったことが原因でした。この経験を教訓に、今後は環境変化区間のリスク分析をさらに深め、「現地情報優先」の判断基準を明確に持つこと、そしてチームでの冷静なリスク評価と判断プロセスを強化することが不可欠だと考えています。
アドベンチャーレースは、予測不能な状況への対応力が試されるスポーツです。今回の失敗から学び、次に活かすことで、より高いレベルを目指していきたいと思います。このレポートが、読者の皆様のレース活動の一助となれば幸いです。