サンライズエンデュランス レースレポート:ロングレース後半、夜間から朝方にかけての体調・判断力維持戦略
はじめに
先日参加したサンライズエンデュランスは、約30時間におよぶチーム形式のロングアドベンチャーレースでした。山岳トレッキング、MTB、パドル、そしてナビゲーションが複合されたこのレースは、体力、スキル、そしてチームワークが試される機会となりました。この記事では、特にレース後半、体力的・精神的に最も厳しい時間帯となる「夜間から朝方にかけて」の経験に焦点を当て、その時間帯特有の課題、具体的な判断とその結果、そしてそこから得られた学びと今後の改善策について詳細にレポートします。
多くのロングレース参加者が直面するこの時間帯の難しさを共有し、読者の皆様がご自身のレース戦略や準備に役立てられる具体的なヒントを提供できれば幸いです。
レース前の準備:夜明け前の試練を想定した戦略
サンライズエンデュランスは、フィニッシュ時間が翌日の昼頃と予測されており、レース時間の約半分を夜間パートが占めることになります。特に夜明け前の時間帯は、疲労のピークと気温の低下が重なり、最も判断力が鈍りやすいと予測していました。この点を踏まえ、レース前の準備では以下の点を重視しました。
- 体調管理: レース直前の数日間は十分な睡眠を確保し、睡眠負債を可能な限り減らすことに努めました。また、レース中の体内時計の乱れを最小限にするため、前日は早めに就寝しました。
- 補給戦略: 夜間は消化能力が低下することを考慮し、ジェルやカーボドリンクなどの液体・半固体状の補給食を多めに準備しました。また、眠気対策としてカフェイン入りの補給食を夜間用に分けました。体温維持のため、温かいスープや紅茶を携帯する計画も立てました。
- 装備選択: ヘッドライトは、メインに加え予備バッテリーとサブライトを必ず携帯することを徹底しました。夜間の気温低下に備え、保温性の高いベースレイヤー、フリース、軽量ダウンなどの防寒具をザックに忍ばせました。シューズは、夜間の濡れた路面や冷えを考慮し、防水性のあるものを選びました。
- チーム内での役割分担: 疲労困憊時でも互いの状態を確認し合い、必要に応じて役割を交代できるよう、事前にチーム内でコミュニケーションの方法やサインを確認しました。特にナビゲーションは疲労時のミスが命取りになるため、最低2名で常に確認することを申し合わせました。
レース中の詳細:夜間〜朝方パートの攻防
レースは順調に進行し、夜間パートに入りました。夕食休憩を挟み、ヘッドライトを点灯して進みます。
- 20:00 - 0:00 (夜間前半): まだ比較的体力があり、気温もそれほど低くなかったため、計画通りのペースで進みました。ナビゲーションも集中力が高く、大きなミスはありませんでした。補給も計画通りに行い、エイドステーションでは温かいものを積極的に摂取しました。チーム内のコミュニケーションも活発でした。
- 0:00 - 4:00 (深夜): 疲労が蓄積し始め、特に眠気との戦いが始まりました。この時間帯はMTBセクションでしたが、路面のギャップに対する反応が鈍くなり、転倒のリスクを感じました。ナビゲーション担当者も集中力が低下し、細かいルートの見落としが発生し始めました。具体的な判断としては、計画より短い頻度で休憩を挟み、ストレッチや簡単な体操で体を動かし、眠気を覚ます工夫をしました。また、カフェイン入りの補給食を計画より早めに摂取しました。チーム内では、互いの状態を頻繁に声かけ合いました。「大丈夫か?」「ペース落とそうか?」といったシンプルな声がけが、精神的な支えとなりました。一度、ナビゲーションで10分ほど迷走しましたが、冷静に地図とコンパスを確認し直し、来た道を戻る判断をしました。これは、迷っている状況で焦らず、一度立ち止まって確認するという事前の申し合わせが生きた事例でした。
- 4:00 - 6:00 (夜明け前): 体力の消耗がピークに達し、気温も最も低下しました。凍えるような寒さで、指先の感覚が鈍り、細かい作業(装備の出し入れや補給食の開封)が困難になりました。最も厳しかったのは、睡魔による判断力の低下です。トレイル上でも思わず立ち止まって寝てしまいそうになるほどでした。この時間帯はナビゲーションをより慎重に行う必要がありましたが、地図上の細かい等高線や目標物を見落としやすくなりました。一度、次のチェックポイントへ向かうルート選択で、チーム内で意見が分かれました。一人は最短距離を主張しましたが、もう一人は安全を優先し、少し迂回するものの確実なルートを提案しました。疲労困憊の中でしたが、時間をかけて話し合い、最終的に安全な迂回ルートを選択しました。結果的にこの判断は正しく、難所を回避してスムーズに進むことができました。ここで無理なルートを選択していれば、さらに時間をロスしていた可能性が高いです。補給も疎かになりがちでしたが、チームメンバーがお互いに声をかけ、「何か食べよう」「温かいものを飲もう」と促し合いました。防寒具はフル着用していましたが、それでも寒さを感じ、体を動かし続けることで体温を維持しようと努めました。
- 6:00 - フィニッシュ (朝方〜昼): 夜が明け始めると、精神的に少し楽になりました。しかし、体力的な疲労は限界に近く、ペースを上げることは困難でした。朝食として温かいスープと固形物を摂取したことで、一時的に元気を取り戻せましたが、持続しませんでした。最後のセクションでは、判断力は回復傾向にありましたが、肉体的な疲労から細かいミス(装備の取り扱いや簡単なコースアウト)が発生しました。チームで励まし合い、なんとかフィニッシュラインを目指しました。
詳細な振り返りと分析:夜明け前の課題
レース全体を振り返り、特に夜間から朝方にかけての経験から以下の点を分析しました。
- 成功要因:
- チーム内の声かけと互いの状態確認が、厳しい時間帯を乗り越える上で非常に効果的でした。特に、判断が鈍る中で冷静な意見を提供し合えたことは大きな成功要因です。
- 事前に夜間・早朝の厳しい状況を想定し、装備(ヘッドライト、防寒具)や補給(カフェイン、温かいもの)の準備をしていたことが、最低限のパフォーマンス維持に繋がりました。
- 疲労困憊時でも、迷った際に立ち止まり、チームで確認する、安全を優先するといった事前の取り決めを守れたことは、大きなミスを防ぐことに繋がりました。
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失敗要因:
- 最も顕著な失敗要因は、眠気による判断力の低下でした。特に夜明け前は、ナビゲーションの精度が落ち、ペース判断も甘くなりました。カフェインによる眠気覚ましは効果がありましたが、持続時間に限界がありました。
- 寒さへの対応が十分ではありませんでした。厳冬期のレースではありませんでしたが、夜間の停滞時や風を受ける箇所では予想以上に冷え込み、体の震えが判断力をさらに鈍らせる要因となりました。
- 補給の遅れが発生しました。寒さや疲労から、補給食を取り出す、食べる、飲むといった行動が億劫になり、計画通りの補給ができませんでした。これが体力の消耗を早めた可能性があります。
- チーム内のコミュニケーションの質に課題が見られました。厳しい状況下では、簡潔かつ明確な指示や情報共有が求められますが、疲労により説明が不明瞭になったり、聞き逃したりすることがありました。
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読者への学び:
- ロングレースにおける夜間〜朝方の時間帯は、体力だけでなく、精神力、特に判断力の低下が最も顕著になる時間帯であることを強く認識しておく必要があります。
- この時間帯を乗り切るためには、事前の睡眠負債解消が極めて重要です。
- 寒さ対策は、パフォーマンス維持と判断力低下防止のために必須です。予想される気温より少し余裕を持った装備計画が必要です。
- 疲労時でも確実に実行できるシンプルな補給戦略を立て、それを厳守する意識が大切です。飲み込みやすいジェルや温かい飲み物などを活用しましょう。
- チームレースでは、この厳しい時間帯における互いの状態把握と声かけ、役割分担がチーム全体のパフォーマンスを維持するために不可欠です。判断が鈍る時間帯であることを前提に、重要な判断は複数人で確認するなどのルール作りが有効です。
装備レビュー:夜間パートで活躍・課題が見えた装備
サンライズエンデュランスの夜間パートで使用した装備の中から、特に印象に残ったものをいくつかレビューします。
- ヘッドライト (ブランドA, モデルX): 最大光量が高く、トレイルの先まで十分に照らすことができ、夜間ナビゲーションの精度維持に貢献しました。しかし、長時間使用するとバッテリーの消耗が速く、予備バッテリーの交換が必須でした。交換作業は低温下で指がかじかんでいると手間取りました。
- 軽量ダウンジャケット (ブランドB): パッキングサイズが非常に小さく、休憩時や気温が低い区間で重ね着することで体温維持に役立ちました。軽量ながら高い保温性を発揮し、夜間の寒さから身を守る上で不可欠なアイテムでした。行動中には暑すぎて着用できませんでしたが、ザックにある安心感は大きかったです。
- 保温ボトル (ブランドC): 温かい飲み物を入れるために使用しました。夜間のエイドステーションで補充した温かい紅茶が、体の芯から温まり、一時的に眠気や寒さを和らげるのに非常に効果的でした。ただし、重量が増える点がトレードオフとなります。
- ジェル系補給食 (各種): 夜間は固形物を食べるのが億劫になるため、ジェルが主体の補給となりました。カフェイン入りのものは眠気対策に有効でしたが、甘みが強く、大量摂取は避けたいと感じました。次に活かすためには、もう少し味の種類を増やすか、甘さ控えめのものを選ぶ工夫が必要です。
具体的な改善策:次レースへ向けて
今回のサンライズエンデュランスでの経験、特に夜間〜朝方にかけての課題を踏まえ、次のロングレースに向けて以下の具体的な改善策を実行する計画です。
- 夜間・疲労困憊下ナビゲーション練習:
- 意識的に夜間、または体力的に疲労している状態でのナビゲーション練習を取り入れます。暗闇の中での地図読み、コンパスの正確な使用、そして疲労による集中力低下の中で地形を把握する練習を行います。
- 短時間で複数のチェックポイントを正確に通過する練習を繰り返し、疲労下でもナビゲーション精度を維持できるようスキルアップを目指します。
- 睡眠戦略の見直しと実践:
- レース前の睡眠負債をゼロにする努力を徹底します。
- レース中に短時間の仮眠(パワーナップ)を戦略的に取り入れる練習をします。例えば、エイドステーション到着時に15分間仮眠をとるなど、レース中の具体的な状況を想定してシミュレーションを行います。
- 寒さ対策と補給戦略の最適化:
- 夜間や早朝の最低気温を想定し、必要に応じてさらに保温性の高いミドルレイヤーやグローブ、ソックスなどを検討します。
- 補給食は、疲労・低温下でも食べやすく、消化しやすいもののリストを再作成します。特に、温かい補給(スープ、お茶)をレース中にどのように確保し、摂取するか、具体的な計画を立てます。携帯するボトルの種類や数を再検討します。
- 一定時間ごとにアラームを設定するなど、補給忘れを防ぐための仕組みを導入することをチームで検討します。
- チームコミュニケーションの強化:
- 疲労困憊時でも誤解が生じにくい、簡潔で明確なコミュニケーション方法を練習します。
- メンバーそれぞれが、自身の体調や精神状態を素直にチームに伝える習慣をつけ、異変があれば早期に共有できるよう練習します。
- 重要な判断が必要な場面では、必ず一度立ち止まり、全員で地図や状況を確認するというルールをより厳格に運用できるよう意識します。
まとめ
サンライズエンデュランスの夜間から朝方にかけての時間帯は、まさに体と心の両方が試される極限状態でした。このレポートを通して、その時間帯特有の課題、具体的な判断とその結果、そして成功と失敗から得られた学びを共有できたことを願っています。
特に、ロングレースにおける夜明け前の判断力低下は避けられない現実であり、それに対する事前の準備と戦略が非常に重要であることを再認識しました。十分な睡眠、適切な補給と寒さ対策、そして何よりもチーム内の強力な連携が、この厳しい時間帯を乗り越える鍵となります。
今回の経験を糧に、具体的な改善策を実行し、次のレースではこの「夜明け前の試練」をより効果的に乗り越えられるよう、準備を進めてまいります。皆様のレース活動の一助となれば幸いです。