グリーンフォレストエンデュランス レースレポート:長時間単調セクションにおける集中力とナビゲーション精度維持の課題
はじめに:グリーンフォレストエンデュランスへの挑戦
先日、グリーンフォレストエンデュランスというアドベンチャーレースに参加しました。このレースは、その名の通り広大な森林地帯を舞台とし、特に林道でのバイクセクションと、湖や緩やかな川でのパドルセクションの比率が高いことが特徴です。総距離は約200km、制限時間は24時間という設定でした。
過去数年のアドベンチャーレース経験で、ナビゲーションや体力面での基本的なスキルは身についてきたと自負しております。しかし、このレースのように風景の変化に乏しい単調なセクションが長時間続く場合における、集中力の維持とそれ伴うナビゲーション精度の確保に課題を感じておりました。今回のレースは、まさにその点を検証し、克服するための良い機会になると考え、準備を進めました。本稿では、このレースの参加レポートを通じて、長時間単調セクションでの具体的な状況、判断、そしてそこから得られた学びと改善策を共有いたします。
レース前の準備:戦略と装備選定
今回のグリーンフォレストエンデュランスに向けて、チーム内で重点的に話し合ったのは、長時間のバイクセクションとパドルセクションにおけるペース配分と集中力維持の戦略です。
戦略の柱
- 単調区間でのペース維持とナビゲーション頻度: 林道バイクやフラットパドルは、地形的な変化が少なく、ペースが落ちやすい一方で、ナビゲーションも単調になりがちです。計画段階では、一定の巡航ペースを維持しつつ、最低でも1kmごと、あるいは目印がない場合でも10〜15分に一度は必ず地図上の現在地と進行方向を確認する、というナビゲーション頻度を設定しました。これは、目印が少ない環境でも位置を見失わないための意識的な取り組みです。
- チーム内の声かけと役割分担: 集中力が切れやすい単調なセクションでは、チームメンバー間の声かけが重要になると考えました。「次に見えるカーブまで」「あの木のところまで」といった具体的な目標を共有したり、お互いの体調や精神状態を確認し合ったりする時間を意識的に設ける計画を立てました。また、ナビゲーター以外のメンバーも常に地図を確認するよう促し、マルチチェック体制を強化しました。
- 補給戦略と集中力: 長時間の単調な運動は、肉体的な疲労に加え、精神的な飽きや集中力低下を招きます。これを緩和するために、普段より多様な種類の補給食(甘いもの、塩気のあるもの、固形、ジェルなど)を用意し、飽きさせない工夫を凝らしました。また、カフェインを含む補給食を計画的に摂取するタイミングも検討しました。
装備選択とその理由
このレースは林道バイクとフラットパドルが中心となるため、以下の点に特に注意して装備を選定しました。
- バイク: 林道の大部分は舗装路または硬く締まった砂利道と予測し、転がり抵抗が少なく、かつある程度のグリップ力を持つグラベルタイヤを選択しました。また、長時間のサドル上での快適性を考慮し、クッション性のあるサドルカバーも準備しました。
- パドル: レース指定のレンタル艇でしたが、パドルは個人持ち込みが許可されていたため、ブレード形状がフラットウォーター向けで、軽量かつ剛性の高いカーボンパドルを使用しました。長時間の同一動作による肩や腕への負担を軽減するためです。
- バックパック: バイク、トレッキング、パドルの全てのセクションで使用するため、フィット感が高く、揺れが少ない軽量なベスト型バックパックを選びました。特にバイクセクションでの快適性を重視しました。
- ライト: 夜間セクションが予想されたため、視界を広く確保できるよう、広角照射が可能なヘッドライトと、手元や地図を確認するための小型ライトの二灯体制としました。
これらの準備は、単調なセクションをいかに効率良く、かつ集中力を維持して通過できるかという戦略に基づいたものです。
レース中の詳細:セクションごとの判断と行動
レースは予定通り午前中にスタートしました。
スタート〜第1トランジション(トレッキング〜バイク)
最初のセクションは短いトレッキングでした。ここではまだ体力も十分にあり、チーム全員で積極的にナビゲーションを行い、スムーズにCPを回収しました。トランジションエリアでは、事前に計画していた手順に従い、迅速にバイク装備へ切り替えました。
第1トランジション〜第2トランジション(バイク)
いよいよ今回の鍵となる長時間の林道バイクセクションです。序盤は設定したペースで順調に進みました。しかし、単調な上り坂が数キロ続いたあたりから、チーム全体の会話が減り、集中力が低下しているのを感じ始めました。
この時、計画していたナビゲーション頻度(10〜15分に一度の確認)が疎かになり始めました。具体的には、目印となる分岐や施設が少ない区間では、つい「まだ大丈夫だろう」と確認を先延ばしにしてしまう傾向が見られました。結果として、ある地点でルートを間違え、5分程度のロストが発生しました。幸い、間違いに早期に気づき修正できましたが、これがナビゲーション戦略の甘さを露呈する形となりました。
このロストを機に、チーム内で意識を再確認しました。「どんなに単調でも、決めた頻度で必ず止まって確認しよう」「声をかけ合って、眠気や飽きを共有しよう」と確認しました。その後は、登り坂では「あと何キロ頑張ろう」、平坦区間では「次のCPで〇〇を補給しよう」といった具体的な声かけを増やし、お互いを励まし合いました。補給も計画通りに進め、特に夜間にかけてはカフェイン入りのジェルを摂取し、眠気を払う工夫をしました。
装備面では、バイクのグラベルタイヤは林道で良好なグリップと転がり抵抗を発揮し、選択は正解でした。サドルカバーも長時間の乗車には有効でしたが、それでも後半は臀部の痛みが徐々に増してきました。
第2トランジション〜第3トランジション(パドル)
夜間に入り、次のセクションは長時間のフラットウォーターパドルです。湖上でのパドルは、バイク以上に風景の変化がなく、ナビゲーションも陸上の目印が少ないため、コンパスと地図上の等高線、そして進行方向の確認が重要になります。
疲労が蓄積している中で、パドル動作は単調かつ持続的なため、眠気との戦いとなりました。チームでの声かけはここでも重要でした。「あの遠くの山を目印に」「パドルをあと100回漕いだら休憩しよう」といった具体的な目標設定や、歌を歌ったり、軽い雑談を交わしたりすることで、意識を保つ努力をしました。
ナビゲーションにおいては、夜間かつ水上という環境で、陸上の目印がほとんど見えない状況でした。湖の対岸にある特定の岬や、遠くの山の稜線をコンパスで確認する頻度を増やしましたが、地形の変化が少ないため、地図上での現在地特定は非常に難しく感じました。一箇所、対岸のCPへ向かう角度をわずかに間違え、目標地点から数百メートルずれた場所に上陸してしまい、若干のタイムロスが発生しました。これも、単調な環境下でのナビゲーション精度が課題であることを再認識させられる出来事でした。
使用したカーボンパドルは軽量で扱いやすかったものの、長時間のパドル動作で肩周りの筋肉に疲労が蓄積しました。夜間使用した広角ヘッドライトは視界確保に役立ちましたが、水面に反射して見えづらい場面もありました。
レース後半〜フィニッシュ
パドルセクションを終え、再び短いトレッキングと最後のバイクセクションをこなしました。疲労困憊の状態でしたが、フィニッシュを目指すモチベーションとチームメンバーとの支え合いにより、なんとか最後まで粘り強く進むことができました。特に、事前に準備していた多様な補給食は、食欲が低下した状況でも摂取しやすく、最後までエネルギーを維持する上で有効でした。
詳細な振り返りと分析
グリーンフォレストエンデュランスを終えて、計画通りに進んだ点、そして課題となった点を深く分析しました。
成功要因
- 事前の詳細な戦略会議: 長時間単調セクションへの対策をチームで事前に十分に話し合い、具体的な行動計画(ナビゲーション頻度、声かけルールなど)を立てたことは、レース中の意識付けに繋がりました。
- 多様な補給食: 飽きずにエネルギー補給を続けられたことは、終盤のパフォーマンス維持に大きく貢献しました。
- チーム内の積極的な声かけ: 特に後半の疲労困憊時には、チームメンバー間の励まし合いや、具体的な目標共有がモチベーション維持に非常に有効でした。
失敗要因・課題
- 単調区間でのナビゲーション頻度の低下: 計画は立てたものの、疲労や単調さから実際のナビゲーション確認が疎かになり、ロストに繋がりました。特に風景変化が少ない林道や湖上での現在地特定能力が不足していたことを痛感しました。
- ペース配分の難しさ: 長時間単調なセクションでの適切なペース(速すぎず、遅すぎず、かつ体力を温存できるペース)を見つけることが課題でした。前半少し飛ばしすぎた感があり、後半の疲労蓄積を早めた可能性があります。
- 集中力維持の難しさ: 肉体疲労に加え、精神的な飽きや単調さによる集中力の低下は想像以上に大きく、これがナビゲーションミスやペース低下の根本原因となりました。
読者への学び
- 「決めた頻度で確認」を徹底する: 単調なセクションほど、意識的に立ち止まる、あるいはペースを落として地図とコンパス(またはGPS)を確認する時間が必要です。「まだ大丈夫」という油断が命取りになります。
- ナビゲーションにおける「具体的な目標」設定: 風景変化が少ない場所では、地図上の等高線、小さな沢、曲がり角の形状など、より詳細な情報を読み取り、そこを通過したら必ず確認するというルールを設定すると効果的です。
- チーム内の「集中力チェック」と「声かけ」: 定期的にチームメンバーの集中度をチェックし、声かけによって意識を向け直す、あるいは休憩を挟む勇気を持つことが重要です。単なる励ましだけでなく、「次の〇〇まで頑張ろう」「△△について話そう」など、具体的な働きかけが有効です。
- 補給戦略に「飽きさせない工夫」を取り入れる: 長時間レースでは、普段食べ慣れているものでも飽きてきます。味、食感、形状など、多様な種類の補給食を用意しておくことは、最後までしっかりエネルギーを摂取するために有効です。
装備レビュー
今回のレースで使用した装備の中から、特に印象に残った点をレビューします。
- グラベルタイヤ: 林道区間が多かった今回のレースでは、グラベルタイヤが非常に良い働きをしました。舗装路での転がり抵抗も少なく、砂利道や未舗装路でのグリップ力も十分に確保でき、安心して走行できました。レースコースの路面状況を事前に把握し、適切なタイヤを選ぶことの重要性を改めて認識しました。
- カーボンパドル: 軽量であることは長時間のパドルセクションにおいて大きなメリットでした。しかし、その分、筋肉への負担を分散させるためのフォーム維持や、定期的なストレッチ、休憩の必要性を感じました。パドル自体の性能は高かったものの、それを最大限に活かすためには、個人の体力や技術も重要であることを痛感しました。
- ベスト型バックパック: バイク乗車中やパドル中も体にフィットし、揺れが少なかったため、ストレスなく行動できました。ただし、収納ポケットが多すぎると、どこに何を入れたか忘れがちになるため、収納場所を事前に決めておくことが重要です。
具体的な改善策:次へのステップ
今回のレースで明らかになった課題、特に長時間単調セクションでの集中力とナビゲーション精度向上のために、以下の具体的な改善策を実行に移します。
- ナビゲーション練習の強化:
- 等高線読図の精度向上: 等高線のみを頼りに現在地を特定する練習を増やします。特に、平坦な地形や等高線の変化が少ない場所での読図スキルを磨きます。
- 距離と時間の感覚練習: 地図上の距離と、特定のペースで移動した場合にかかる時間の感覚を養う練習を行います。これにより、「地図上でこれだけ進んだら、これくらいの時間がかかるはずだ」という予測精度を高め、現在地確認の判断材料とします。
- 単調な地形でのナビゲーションシミュレーション: 実際に林道や堤防、湖畔など、風景変化の少ない場所で地図とコンパスのみを使ったナビゲーション練習を行い、意識的に確認頻度を上げる練習をします。
- 集中力維持トレーニング:
- 長時間持続運動: ロードバイクでの長距離走行や、エルゴメーターでの長時間トレーニングを意識的に行い、単調な環境下での集中力を持続させる精神的な耐性を養います。
- マインドフルネスや集中力を高める練習: 瞑想や、一つのことに集中する時間を設ける練習を取り入れ、レース中の雑念を払い、目の前のナビゲーションや動作に集中するための基礎的な力を高めます。
- チーム連携の再確認:
- 「集中力チェック」サインの設定: チーム内で、お互いの集中力が低下していないかを確認するための簡単なサイン(例: 特定の言葉、ジェスチャー)を設定します。
- 声かけ内容のバリエーション: 単調な区間での会話や声かけのネタを事前にいくつか用意しておきます。歴史、自然観察、趣味など、レースと直接関係ない話題も有効です。
- 定期的な休憩の導入: 疲労困憊する前に、短い休憩を計画的に挟むことで、集中力をリフレッシュする戦略を導入します。
- 装備・補給計画の見直し:
- サドル周りの調整: 長時間バイクでの快適性をさらに高めるため、サドル自体の見直しや、レーサーパンツの選択肢を広げます。
- パドルセクション用補給: パドル中の体の向きや動きを考慮し、パドルを漕ぎながらでも容易に摂取できる補給食や水分補給の方法を検討します。
これらの改善策を次戦までのトレーニングや準備期間に実行することで、今回のレースで見つかった課題を克服し、より質の高いレース展開を目指したいと考えています。
まとめ:単調さの中に潜む課題
グリーンフォレストエンデュランスは、長時間にわたる単調なセクションが、体力だけでなく、精神的な集中力、そしてそれが直結するナビゲーション精度にいかに影響を与えるかを痛感させられたレースでした。単に長時間動ける体力があるだけでなく、変化の少ない環境下でも高い集中力を維持し、正確なナビゲーションを継続する能力が、アドベンチャーレース、特にエンデュランス系のレースにおいては非常に重要であることを改めて認識いたしました。
今回の経験を通じて得られた具体的な学びと改善策は、今後のレース活動において重要な指針となります。読者の皆様にとっても、自身のレースでの集中力維持や単調な環境でのナビゲーションに関する課題解決の一助となれば幸いです。アドベンチャーレースは、常に自己の限界に挑戦し、学び続けるプロセスであると感じています。