フォレストトレイルアドベンチャー レースレポート:チーム連携の深化とコミュニケーションの課題
導入:チームで挑むアドベンチャーレースの本質
この度参加したフォレストトレイルアドベンチャーは、森林地帯を中心に設定された24時間形式のポイントオリエンテーリングを主軸とするアドベンチャーレースでした。テクニカルなトレイル、アップダウンの連続、そして夜間ナビゲーションが特徴であり、個々の体力やスキルに加え、チームとしての連携能力が試される大会です。
これまで数年間アドベンチャーレースに参加してきましたが、個々の走力やナビゲーションスキルを高めることに注力しがちでした。しかし、上位チームのパフォーマンスを分析するにつけ、スムーズで効率的なチーム連携が総合力に大きく影響することを痛感しています。今回のレースでは、チーム内のコミュニケーションと意思決定プロセスに意識的に焦点を当て、その深化を図ることを一つの目標として設定しました。この記事では、その試みがどのように機能し、どのような課題が見つかったのかを詳細に振り返ります。
レース前の準備:連携強化を見据えた戦略
今回のレースに向けた準備では、チームとしての一体感を高めること、そしてレース中の意思決定プロセスを明確にすることに重点を置きました。
レース戦略としては、序盤から無理なハイペースを避け、チーム全員が安定したパフォーマンスを維持できるペース設定を心がけました。特にテクニカルな下りや登りでは、各自の得意・不得意を補い合えるような声かけやサポート体制を事前に確認しました。
装備選択においては、個人装備の軽量化はもちろん、チームで共有する装備(ファーストエイドキット、修理用具、共同食料など)の分担と収納場所を明確に定めました。これにより、必要な時に誰が何を持つべきか、どこにあるべきかを迷う時間を削減できると考えました。また、緊急時の連絡手段として、携帯電話に加え衛星通信機を携行し、その使用方法をチーム全員で確認しました。
直前の調整としては、レース前日に現地入りし、コースマップの事前検討をチームで行いました。特に難易度が高いと予想されるセクションや、ナビゲーションが重要になるエリアについて、複数のメンバーでルート選択のシミュレーションを行い、想定されるリスクと対応策を話し合いました。また、レース中の役割分担(ナビゲーター、ペースメーカー、後方確認など)について、セクションや時間帯に応じて柔軟に変更できるよう、共通認識を持ちました。
レース中の詳細:現場でのチームワーク
スタート~序盤(トレッキング・オリエンテーリングセクション)
スタート直後のトレッキングセクションは、比較的平坦な道が続きましたが、最初のCP(チェックポイント)へのルート選択で早速チームの連携が試されました。A地点からB地点へのアプローチにおいて、地図上では複数の選択肢がありました。一人は最短距離と思われる尾根沿いの直進ルートを主張し、もう一人は少し遠回りになるがより確実な林道ルートを提案しました。
ここで重要だったのは、それぞれの意見の根拠を冷静に共有したことです。尾根沿いは距離が短い反面、踏み跡が不明瞭な可能性があり、藪漕ぎや読図の難易度が高まるリスクが伴います。林道ルートは距離は長いものの、迷うリスクは低く、安定したペースで進める見込みがありました。議論の結果、まだレース序盤であり体力も十分あることから、リスクを承知で尾根沿いルートを選択しました。
この判断は結果として成功でした。尾根の踏み跡は予想よりもしっかりしており、読図もスムーズに進み、狙い通り最短距離でCPに到達できました。この経験は、チームでリスクを共有し、根拠に基づいた意思決定を行うことの重要性を改めて認識させる機会となりました。
中盤(バイク・パドルセクション)
バイクセクションでは、アップダウンが激しい林道が続き、メンバー間の体力差が顕著になり始めました。疲労が溜まってきたメンバーに対しては、他のメンバーが前を牽引したり、声かけをして励ましたりすることで、チーム全体のペースが大きく落ち込むのを防ぎました。特に登りでは、遅れがちなメンバーの後ろについて、風よけになるなどの具体的なサポートを行いました。
パドルセクションは、静水でのカヌー移動でした。ここでは、漕ぐペースの統一と、船の向きを正確に維持するためのコミュニケーションが不可欠でした。事前に漕ぎ方の呼吸合わせの練習はしていましたが、長時間となるとどうしてもリズムが乱れがちになります。一定の間隔で「イチ、ニ、イチ、ニ」と声を出してペースを共有したり、ナビゲーターが頻繁に進行方向の微調整を指示したりすることで、効率的なパドリングを維持しました。
ここで一つ課題となったのは、疲労による指示の聞き間違いや、声がけがおろそかになる場面があったことです。特に強風が吹いた際には、声が届きにくく、意思疎通に時間がかかりました。これは、レース中の環境変化に応じたコミュニケーション方法の柔軟性を欠いていた点であり、反省すべき点です。
夜間~終盤(夜間ナビゲーション・トレッキング)
夜間ナビゲーションは、このレースの最大の山場でした。ヘッドライトの明かりだけを頼りに地図とコンパスで進むため、チームで常に現在地を確認し、複数人で地図を読み合わせることが重要です。
暗闇の中、等高線や地形を正確に把握することは困難を極めます。特に、似たような尾根や谷が連続する場所では、一歩間違えればロストに繋がりかねません。我々のチームでは、ナビゲーターが示したルートに対して、他のメンバーも積極的に意見を述べ、疑問点をその場で解消するプロセスを徹底しました。「この谷は地図上のこれと一致するか」「次の尾根はどこで確認する」など、具体的なポイントで立ち止まり、全員で地形と地図の摺り合わせを行いました。
一度、小さな沢を渡る際に、当初予定していた渡渉ポイントが見つからず、一瞬迷いが生じました。ここで慌てて適当な場所で渡るのではなく、チームで立ち止まり、地図と周囲の地形を再度詳細に確認しました。結果として、少し上流に安全かつ確実に渡れるポイントを発見し、大きなタイムロスなくリカバリーすることができました。これは、困難な状況下でもチームで落ち着いて情報を共有し、最善の判断を探る冷静さを持てた成功例と言えます。
しかし、夜間の疲労蓄積により、メンバー間で判断力にばらつきが出始めた時間帯もありました。あるCP手前で、ナビゲーターの判断に他のメンバーが確信を持てず、短いながらも不必要な議論に時間を費やしてしまう場面がありました。最終的にはナビゲーターの判断に従いましたが、後から振り返ると、疲労で判断力が低下していたメンバーが、些細なことで不安を煽ってしまった側面があったように思われます。このような状況下での、信頼に基づいた迅速な意思決定が今後の課題です。
詳細な振り返りと分析:成功と失敗から学ぶ
今回のフォレストトレイルアドベンチャーを通して、チーム連携とコミュニケーションについて多くの学びがありました。
成功要因
- 事前準備による共通認識: レース前のルートシミュレーションや役割分担の確認が、レース中のスムーズな意思決定の基礎となりました。特に夜間ナビゲーションでの共同確認は、ロストのリスクを低減する上で非常に有効でした。
- 困難な状況での冷静な判断: 一度迷いかけた場面で立ち止まり、チームで再確認を行ったことで、結果的に大きなロスを避けることができました。これは、パニックにならず、客観的に状況を分析できたチームとしての成熟度を示していると考えられます。
- 相互サポート: 疲労したメンバーへの声かけや物理的なサポートは、チーム全体のモチベーション維持とペース維持に貢献しました。
失敗要因
- 疲労時のコミュニケーション課題: 長時間・長距離の疲労蓄積は、判断力だけでなく、冷静なコミュニケーション能力も低下させます。特に夜間帯における、指示の聞き間違いや、不必要な不安感の表明は改善が必要です。
- 役割の硬直化: 事前に役割分担を決めていましたが、レース中の状況変化(例: ナビゲーターの疲労、特定のスキルが必要な場面)に応じて、より柔軟に役割をスイッチする判断が遅れることがありました。
- フィードバックのタイミングと方法: レース中に問題点や改善点を感じた際に、チームの士気を下げずに建設的なフィードバックを行う技術が不足していました。疲労困憊の状況では、言葉選び一つでチーム内の雰囲気が悪化するリスクがあります。
読者への学び
チーム連携は、単に一緒に進むだけでなく、情報を共有し、互いをサポートし、共通の目標に向かって意思決定を行う複合的なスキルです。レース中に起こる様々な困難(疲労、ナビゲーションミス、予期せぬトラブル)は、チームの結束を試す絶好の機会でもあります。
- 積極的な声かけと情報共有: 自分の状況(体力、装備、感じていること)を正直にチームに伝えること、そして他のメンバーの様子に常に気を配ることが重要です。些細な情報共有が、大きな問題を未然に防ぐことに繋がります。
- 根拠に基づいた意思決定: 多数決ではなく、それぞれの意見の根拠(地図情報、地形、体力状況など)を明確に共有し、論理的に判断を下すプロセスを確立することが、迷いを減らし、迅速な行動に繋がります。
- 役割の柔軟性: 事前の役割分担は重要ですが、レース中は状況に応じて誰がどの役割を担うのが最も効果的かを見極め、柔軟に対応できるチームが強いです。
具体的な改善策:次戦へのステップ
今回のレースで明らかになったチーム連携とコミュニケーションの課題に対し、次のレースに向けて以下の具体的な改善策を実行する計画です。
- 定期的なチームミーティング: レース参加前だけでなく、普段から定期的にチームミーティングを実施し、お互いの近況やコンディショニング、スキルアップの状況を共有します。これにより、お互いの理解を深め、レース中の異変にも気づきやすくなると考えられます。
- 意思決定プロセスの反復練習: 地図上でのルート選択など、架空の状況設定を用いて、チームでの意思決定プロセスを反復練習します。特に、意見が分かれた場合の収束方法や、最終的な判断権限の所在(柔軟なナビゲーター制など)について具体的なルールを設けることを検討します。
- フィードバック手法の習得: ポジティブ・ネガティブ双方のフィードバックを、チームの士気を下げずに効果的に伝える方法について、チーム内で話し合い、共通の認識を持つようにします。例えば、「[具体的な状況]の時、[客観的な行動]がありましたが、[私/私たちの考え]としては、[別の行動]の方が良いかもしれません」のように、感情的にならず事実と提案を明確に伝える練習を行います。
- コミュニケーションツールの活用検討: 長距離や悪天候下での声がけが困難な状況に備え、チーム内で短距離無線機などのコミュニケーションツールの導入を検討します。また、それぞれのメンバーが使い慣れていることを確認し、レース前に必ず動作チェックを行います。
これらの改善策を通じて、チームとしての対応力をさらに高め、どんな状況下でも円滑な連携ができるように準備を進めます。
装備レビュー:チーム連携を支えるギア
今回のレースで使用した装備の中から、特にチーム連携やコミュニケーションに関連して印象に残ったものをいくつかレビューします。
- ヘッドライト(高ルーメン・広角タイプ): 夜間ナビゲーションにおいて、複数人で地図を読み合わせる際に、一人当たりの照射範囲が広く、かつ十分な光量があるヘッドライトが非常に役立ちました。地図全体を明るく照らせることで、全員が同じ情報を見ながら議論できたことは大きな助けとなりました。
- 小型防水メモパッドとペン: レース中、特にナビゲーション中に重要な判断や発見(例: 特徴的な地形、次のCPへのアプローチ方法の変更点)をチーム内で共有する際に、口頭だけでなくメモとして残し、他のメンバーに見せながら説明できることが有効でした。防水仕様であれば、雨天時や渡渉後でも使用可能です。
- エマージェンシーシート(チューブタイプ): 休憩や待機中に、チーム全員で一時的に体温を維持するために使用しました。個別のシートよりも、複数人で一緒に入れるチューブタイプは、物理的な距離が近くなることで自然とコミュニケーションが生まれやすく、士気維持にも繋がったように感じます。
まとめ:連携は究極のスキル
フォレストトレイルアドベンチャーは、個々の限界に挑戦する場であると同時に、チームとしての総合力が問われる場であることを改めて認識させられました。今回のレースを通して、チーム連携とコミュニケーションにおける成功体験と具体的な課題が見つかりました。
アドベンチャーレースにおけるチーム連携は、体力やナビゲーションスキルと同様に、あるいはそれ以上に、継続的な練習と改善が必要な究極のスキルであると確信しています。今回の詳細な振り返りが、私たち自身の次のレースに向けた糧となることはもちろん、同じようにチームでの活動に課題を感じている読者の皆様にとって、何らかの示唆やヒントになれば幸いです。互いを理解し、支え合い、共に困難を乗り越えるチームがあればこそ、アドベンチャーレースの魅力は一層深まるのだと感じています。