フォレスト&リバーアドベンチャー レースレポート:多様なサーフェス変化への適応とペース戦略の検証
はじめに
この度参加いたしました「フォレスト&リバーアドベンチャー」は、その名の通り、深い森林地帯から変化に富む河川沿い、そして舗装路に至るまで、非常に多様なサーフェス(地面の質)が連続する点が特徴的なレースでした。全長約80km、制限時間18時間というミドルレンジのアドベンチャーレースであり、ナビゲーション、トレッキング、バイク、そしてパックラフトによるパドルセクションが含まれています。
今回のレースでは、特に予測される多様なサーフェスへの適応と、それに合わせたペースマネジメントを意識して臨みました。この記事では、レース中の具体的な判断や行動、そしてレース後に詳細な分析から見えてきた成功点と課題、さらに次に活かすための具体的な改善策を共有いたします。アドベンチャーレースにおいて、足元の状況変化にいかに対応し、全体のパフォーマンスを最適化するかという点に関心のある読者の方々に、少しでも有益な情報を提供できれば幸いです。
レース前の準備:戦略と装備選択
レース前の準備段階では、フォレスト&リバーアドベンチャーのコース特性を詳細に分析することに重点を置きました。過去のリザルトや参加者の声、公開されているコース概要から、複数のサーフェスが頻繁に切り替わる点が大きな挑戦になると予測しました。
戦略: 全体の戦略としては、序盤の体力があるうちに難易度の高いナビゲーションセクションを確実にクリアし、体力消耗が進む後半の舗装路や河川沿いセクションでペースを維持するという方針を立てました。特にサーフェス変化が多い区間では、無理なペースアップは避け、足元の安全確保と体力の温存を優先する計画でした。また、それぞれのサーフェスで最適な体の使い方や、想定される疲労部位を事前にシミュレーションし、チーム内で共有しました。
目標: 具体的な目標タイムは設定せず、完走を最大の目標とし、その過程で「サーフェス変化への意識と対応」をチームとしてどれだけ実践できるかをサブテーマとしました。
装備選択とその理由: * シューズ: 多様なサーフェスに対応するため、グリップ力が高く、適度なクッション性と安定性を兼ね備えたトレイルランニングシューズを選択しました。特に濡れた路面や岩場での滑りを最小限に抑えることを重視しました。しかし、舗装路での走行距離も考慮し、あまりにラグが深すぎるタイプは避けました。 * バックパック: 揺れが少なく、体にフィットする軽量なベスト型バックパックを選びました。パックラフトセクションでは防水ドライバッグに収納する必要があるため、コンパクトにまとめられる点も考慮しました。 * 補給食: 行動食はジェル、エナジーバー、固形食(おにぎり、パン)をバランス良く準備しました。特に、揺れる河川沿いやパックラフト上で摂取しやすいジェルやゼリータイプを多めに携帯し、咀嚼に体力を使わない工夫をしました。 * ウェア: 天候予報は晴れでしたが、森林や河川沿いでの体温調節を考慮し、速乾性のあるベースレイヤー、ミッドレイヤー、軽量な防水シェルを用意しました。特に河川沿いでは風が強い可能性を考慮し、防風性の高いシェルを選択しました。 * パックラフト関連: 大会指定の装備に加え、パドル時に手の保護と保温を兼ねて薄手のグローブを準備しました。
なぜこれらの装備を選択したかという点では、過去のレース経験から、多様な環境下での体温・水分管理、そして疲労下での補給の容易さがパフォーマンスに大きく影響することを学んでいたからです。特にシューズは、足元のサーフェスが頻繁に変わるこのレースにおいて、最もパフォーマンスを左右する装備になると考え、慎重に選びました。
レース中の詳細:セクションごとの記録と判断
スタート~トレッキングセクション(約20km):森林トレイル~岩場
スタート直後から、コースはすぐに深い森林トレイルへと入りました。地面は湿った土と落ち葉、木の根が多く、足元が滑りやすい状況でした。
- 具体的な状況と行動: 序盤ということもあり、周囲のチームもペースが速めでしたが、私たちは計画通り、足元をしっかりと確認しながら慎重に進みました。特に木の根や濡れた落ち葉の上では、一歩ずつ確実に踏みしめることを意識しました。チーム内で「足元、滑ります」「根に注意」といった声かけを頻繁に行い、お互いの安全を確認しました。
- ナビゲーション: 森林内は視界が悪く、地形図とコンパス、そして事前に読み込んだ等高線を照らし合わせながら進みました。いくつかの小さな沢や尾根を通過する際に、等高線のパターンと実際の地形が一致するかを丁寧に確認し、現在地を常に把握するよう努めました。特に、尾根筋を外れて沢に迷い込まないよう、コンパスでの方向維持に注意を払いました。
- 判断とその結果: このセクションでは、他のチームより少しペースを抑えめにしましたが、ナビゲーションは正確に進めることができ、迷うことなく最初のチェックポイント(CP)に到達しました。この判断により、序盤での転倒や怪我のリスクを回避し、体力を温存できたと考えられます。
バイクセクション(約30km):舗装路~河川沿い砂利道
トレッキングセクションを終え、バイクに乗り換えるトランジションエリアに到着しました。ここからは、舗装路と河川沿いの砂利道が交互に現れる区間でした。
- 具体的な状況と行動: 舗装路では、ここぞとばかりにペースを上げたい気持ちになりましたが、その後の砂利道やパドルセクションへの影響を考慮し、過度なアウタートップでの巡航は避け、ケイデンスを高めに維持する意識で走行しました。河川沿いの砂利道に入ると、バイクのタイヤが沈み込み、ハンドルが取られやすくなるため、速度を落とし、ライン取りに注意しました。特に深い砂利や大きな石が混じる場所では、無理せずバイクから降りて押し歩く判断も行いました。
- 装備・補給: バイク走行中、舗装路でジェルやゼリーを摂取し、エネルギー補給を行いました。砂利道では振動が大きく、補給食を取り出すのが難しくなるため、比較的安定した舗装路での補給を心がけました。
- 判断とその結果: 砂利道で無理に乗り越えようとせず、安全を最優先して押し歩く判断は正しかったと考えられます。これにより、パンクのリスクを減らし、体力の急激な消耗を防ぐことができました。一方で、舗装路でのペースアップは若干控えめにしたため、後続チームに先行される場面もありましたが、後続セクションへの体力を温存できた点は計画通りでした。
パドルセクション(約15km):河川
バイクを終え、パックラフトを組み立てて河川を下るセクションです。水の流れは穏やかな場所と、若干の瀬がある場所が混在していました。
- 具体的な状況と行動: 事前に準備しておいた薄手グローブを着用し、パドルを開始しました。川の流れを最大限に利用しつつ、無駄な力を使わない効率的なパドリングを意識しました。チーム内で進行方向や危険箇所(岩など)を声かけし、連携してパックラフトを操作しました。上陸地点に近づくにつれて、川岸の足元が泥濘んでいる可能性を考慮し、パドルを漕ぎながら周囲の状況を観察しました。
- 体力・精神面: 長時間同じ姿勢でパドルを漕ぐため、体幹や肩周りに疲労が蓄積しましたが、定期的に深呼吸を行い、リラックスするよう努めました。チームメイトと他愛のない会話をすることで、精神的なリフレッシュを図りました。
- 判断とその結果: パドル中はほぼ計画通りに進みましたが、上陸地点の泥濘への対応が遅れました。近づいてから足元の状況を確認したため、より硬い地面への上陸ポイントを探すのに時間を要してしまいました。これは、事前の情報収集で上陸地点のサーフェス状況まで具体的に把握できていなかったことが原因です。
トレッキングセクション後半(約15km):山岳~フィニッシュ
最後のセクションは、河川沿いから一転して山岳地帯への急登を含むトレッキングでした。頂上付近はガレ場もあり、下りは不整地でした。
- 具体的な状況と行動: 急登では、体力の残量を考慮しながら、ピッチを細かく刻み、一定のリズムで登ることを意識しました。チームメイトの息遣いや表情を確認し、必要に応じて休憩のタイミングを調整しました。ガレ場では、浮石に注意し、慎重に足場を選びながら進みました。下りでは、膝への負担を軽減するため、ストックを有効活用し、着地の衝撃を吸収するよう努めました。
- ナビゲーション: 山岳地帯では、地形図とコンパスに加え、高度計(GPSウォッチ機能)を活用し、現在地の標高と地形図の等高線を照合することで精度を高めました。特に尾根と谷が入り組んだ場所では、等高線のパターンを丁寧に読み解き、正しいルートを選びました。
- 体力・精神面: レース終盤で疲労のピークに達しましたが、チームメイトと励まし合いながら、最後のCPを目指しました。フィニッシュが近づくにつれてモチベーションが高まり、自然とペースが上がりました。
- 判断とその結果: 山岳セクションの急登では、無理せずペースを抑えた判断は正しかったと考えられます。これにより、頂上付近のガレ場やその後の下りセクションで、足元の安全を確保しながら集中力を維持することができました。ナビゲーションも最後まで精度を保ち、迷うことなくフィニッシュ地点へとたどり着くことができました。
詳細な振り返りと分析
レース全体を通して、多様なサーフェスへの適応という点では、ある程度の成功と明確な課題が見られました。
成功要因: * 序盤のペースコントロール: 滑りやすい森林トレイルでの慎重なスタートは、転倒リスク回避と体力温存に繋がり、その後のセクションへの良い流れを作りました。 * チーム内の声かけ: 足元やルートに関するチームメイト間の頻繁な情報共有は、特に悪路での安全確保とナビゲーション精度維持に有効でした。 * 異なるサーフェスでの装備活用: パドル中のグローブや山岳でのストック活用は、特定のサーフェスでのパフォーマンス維持や疲労軽減に貢献しました。
失敗要因: * サーフェス変化に対するペース判断の課題: * 河川沿いの砂利道における最適な走行(押し歩き)判断はできたものの、その前後の舗装路との「切り替え」における理想的なペース調整の基準が曖昧でした。どの時点でどうペースを切り替えるか、具体的な指標を持っていなかったため、スムーズな移行ができませんでした。 * 上陸地点のような「ゴール間際」や「次のセクションへの移行直前」におけるサーフェス変化への対応が遅れる傾向がありました。フィニッシュや次の目標に意識が向きすぎ、足元の状況判断が疎かになる瞬間があったのです。 * 特定のサーフェスに対する体力・技術の不足: 河川沿いの深い砂利道や山岳のガレ場など、不安定な足元でのバランス維持や筋力(特に足首周り)に課題を感じました。疲労が蓄積すると、こうした悪路でのパフォーマンス低下が顕著になり、ペースが落ちる原因となりました。 * 補給戦略とサーフェスの連携不足: 舗装路での補給は計画通り行えましたが、揺れる砂利道やパックラフト上で、想定以上に固形物を摂取するのが困難でした。サーフェスの種類によって、どのタイミングでどのような形態の補給食を摂るのが最適か、具体的な計画が不足していました。
読者への学び: 私の経験から、アドベンチャーレースにおける多様なサーフェスへの対応は、単に足元に注意するだけでなく、より戦略的なアプローチが必要であることを学びました。 * サーフェスに応じたペースの「引き出し」を持つ: 滑りやすいトレイル、固い舗装路、不安定な砂利道、急な登り・下りなど、それぞれのサーフェスで「これくらいの負荷でこれくらいのペース」という具体的な体感と基準を持つことが重要です。練習で意識的に異なるサーフェスを走り込み、体と脳に覚え込ませる必要があります。 * サーフェス変化を予測し、事前に準備する: 地形図やコース概要から次のサーフェスを予測し、シューズ、ウェア、補給食など、必要な準備を数km手前から意識することがスムーズな移行に繋がります。特にトランジションエリアに入る前や、セクションの終了間際には、次の足元や環境変化への意識を高めるべきです。 * 特定のサーフェスに特化した弱点克服: 自身の苦手なサーフェス(例: 濡れた岩場、深い砂利、急な不整地の下りなど)があれば、普段のトレーニングで集中的に取り組む必要があります。筋力トレーニング、バランス感覚の強化、特定の環境下での走行練習などが有効です。
具体的な改善策:次に活かすための計画
今回のレースで得た学びを基に、次のアドベンチャーレース、特に多様なサーフェスが予想されるレースに向けて、以下の具体的な改善策を実行する計画です。
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練習方法の変更:
- サーフェス混合ロング走: 普段のロング走に、意識的に異なるサーフェス(舗装路、未舗装の公園、河川敷の砂利道、近所の階段や坂道など)を組み込みます。それぞれのサーフェスでの心拍数、ペース、体感負荷を記録し、「サーフェスに応じたペースの引き出し」を体に覚え込ませます。
- 悪路での反復練習: 近所のトレイルや河原で、滑りやすい場所やガレ場を選んで集中的に反復練習を行います。バランス感覚、足裏の感覚、体の使い方の精度向上を目指します。特に下りの不整地での衝撃吸収とバランス練習に時間を割きます。
- 補給と連動した練習: 異なるサーフェスでの走行中に、実際にレースで使う補給食(ジェル、固形物)を摂取する練習を行います。揺れや呼吸が乱れている状況で、どの形態の補給食が最も摂取しやすいかを検証し、レースでの補給計画を具体化します。
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準備計画の見直し:
- シューズ選択基準の明確化: レースのコースプロフィール(舗装路の割合、トレイルの質、岩場の有無など)をより詳細に分析し、そのレースに最適なシューズのタイプを判断する基準を明確にします。場合によっては、トレイルシューズの中でもグリップ重視タイプとクッション性重視タイプを使い分ける、あるいはゲイター(小石や砂の侵入を防ぐ)の利用を検討します。
- 補給食形態の多様化: 今回の反省を踏まえ、ジェルやゼリーだけでなく、口の中で溶けやすいタブレットタイプのエネルギー源や、チューイングタイプの補給食など、揺れる状況でも摂取しやすい形態のものを計画的に組み入れます。
- コース情報の深掘り: 事前のコース情報を得る際に、単なる距離や高低差だけでなく、主要なセクションごとの「サーフェスの質」(土、砂利、岩、舗装、泥濘など)や、サーフェスが切り替わる地点の特徴(傾斜、道幅など)についても、過去の参加者ブログや写真などを参考に、可能な限り具体的に把握するよう努めます。
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レース中の心構え:
- 数km先のサーフェス変化を予測する意識: レース中は常に、今走っているサーフェスと同時に、地形図や事前の情報から数km先のサーフェス変化を予測し、それに応じた体の使い方やペース、補給、装備の準備を頭の片隅に置くように意識します。
- サーフェス変化地点でのチェック: サーフェスが大きく切り替わる地点では、一度立ち止まるか、ペースを落として足元の状況、体の状態、次の区間の計画を再確認する短い時間を設けることを習慣づけます。
装備レビュー:レースで真価を発揮したアイテム
今回のフォレスト&リバーアドベンチャーにおいて、特に多様なサーフェスでその性能を実感できた装備をいくつか紹介いたします。
- トレイルランニングシューズ (〇〇モデル): 森林の湿った土や落ち葉、河川沿いの砂利道、山岳のガレ場といった多様なサーフェスで、期待通りのグリップ力を発揮してくれました。特に下りの不整地でも足裏が滑ることなく、安心して踏み込むことができたのは大きな強みでした。一方で、長時間の舗装路走行では、ソールのラグが若干邪魔に感じられる場面もあり、オールラウンド性能の限界も感じました。次回のレースで舗装路の割合が多い場合は、よりロード寄りのトレイルシューズを選択することも検討が必要です。
- ベスト型バックパック (△△メーカー製): 体へのフィット感が非常に高く、揺れる砂利道や山岳の下りでも、荷物が安定し、体のバランスを崩すことがありませんでした。パックラフト収納時もコンパクトにまとまり、トランジションでの手間を軽減してくれました。
- 補給ジェル (□□ブランド): 今回多めに携帯したジェルは、特にバイクの舗装路セクションで効率的にエネルギーを補給するのに役立ちました。ただし、揺れる砂利道での摂取はやはり難しく、容器を開ける際の集中力が必要でした。レース中にどのサーフェスでどの補給食を摂るか、より具体的なプランニングが重要であることを再認識させてくれたアイテムです。
- 折りたたみ式トレッキングポール (××モデル): 山岳セクションの急登と下りで絶大な威力を発揮しました。特に疲労が蓄積した終盤の下り坂で、膝への負担を大幅に軽減し、バランスを維持するのに役立ちました。ガレ場でも石突きがしっかりと食い込み、安定した体重移動をサポートしてくれました。多様な傾斜とサーフェスに対応できる調整機能付きモデルがやはり有効です。
まとめ
フォレスト&リバーアドベンチャーは、多様なサーフェスが連続する点が非常に挑戦的であり、同時に大きな学びを得られるレースでした。今回の経験から、アドベンチャーレースにおける「サーフェス変化への適応」は、単なるテクニックではなく、事前の周到な準備、レース中の状況判断、そしてレース後の詳細な振り返りに基づく具体的な改善行動が一体となった総合的な戦略であることを痛感いたしました。
特に、それぞれのサーフェス特性を理解し、それに合わせた最適なペース感覚を体に染み込ませること、そしてサーフェスが切り替わる地点での意識的な判断と準備が、全体のパフォーマンスと安全性を大きく左右する重要な要素であると認識しています。
今回得られた学びを活かし、今後のトレーニングやレース準備に反映させていくことで、更なるスキルアップと目標達成を目指してまいります。この記事が、読者の皆様がご自身のレース活動における多様な地形への対応やペースマネジメント戦略を検討される上で、少しでも参考になれば幸いです。