アドベンチャーレースにおけるCP密集地帯のナビゲーション戦略:時間損失を防ぐ判断の検証
アドベンチャーレースにおいて、チェックポイント(CP)が密集しているエリアは、ナビゲーションの正確性とルート判断の迅速さが試される重要な局面です。このレポートでは、先日の「ミスティアイルズアドベンチャー」(架空のレース名)におけるCP密集地帯での経験を詳細に振り返り、そこで直面した課題、具体的な判断、そして次に活かすべき教訓を共有いたします。
「ミスティアイルズアドベンチャー」は、36時間のミドルレースで、特にコース中盤に大小の丘と入り組んだ谷が多く存在するエリアにCPが集中していました。このセクションでの判断が、最終的なタイムに大きく影響すると事前に分析していました。この記事では、特にこのCP密集地帯でのナビゲーションに焦点を当て、どのようにアプローチし、どのような判断を下し、その結果どうなったのかを検証します。
レース前の準備:CP密集地帯への戦略
このCP密集地帯への対策は、レース前の準備段階で最も時間をかけた部分の一つです。このエリアの地図は等高線が細かく、小さな沢や岩、植生の変化が多く記されており、正確な位置確認が求められると予測しました。
具体的な準備としては、以下の点に注力しました。
- 詳細な地図読み込み: エリア全体の地形を把握するのはもちろん、個々のCP周辺の微細な地形(鞍部、尾根の張り出し、沢の分岐、独立岩など)を徹底的に読み込みました。特に、誤認しやすい似たような地形パターンを複数抽出し、区別するポイントをチーム内で共有しました。
- ルート候補の検討: 各CP間の移動について、複数のルート候補を検討しました。例えば、高低差を避けて巻くルート、多少のアップダウンを受け入れて直線的に進むルート、沢沿いや尾根筋など地形的な目印をたどる安全なルートなどです。それぞれのルートのメリット・デメリット(距離、高低差、進路の明確さ、植生の状況など)を事前に評価しました。
- 通過順序のシミュレーション: CPが密集している場合、通過順序によって移動距離や高低差が大きく変わることがあります。全てのCPを効率よく回るための最適な順序を複数パターン検討し、時間配分をシミュレーションしました。
- チェックリストの作成: CPに到達した際に確認すべき地形的な特徴や、次のCPへ向かう際の最初の目標物などをまとめた簡易チェックリストを作成し、混乱時でも確認できるように準備しました。
- チームでの情報共有: チームメンバー全員が同じ地図を読み込み、同じ認識を持つことが重要です。主要なCP周辺の地形特徴や、検討したルート候補、注意すべきポイントなどをチーム内で何度も議論し、共通認識を深めました。
レース中の詳細:CP密集地帯での実践
CP密集地帯に突入したのは、レース開始から約10時間後、既に体力的・精神的な疲労が出始めていた頃でした。夜間から明け方にかけての時間帯であり、視界も限られていました。
エリア最初のCPへ向かう際、事前に検討したルート候補の中から、やや距離は増えるものの、明確な尾根筋を利用するルートを選択しました。疲労と夜間という条件を考慮し、リスクの少ない安全策を選んだ判断です。この判断は奏功し、正確にCPに到達することができました。
問題は、その後の複数のCPを回るセクションで発生しました。地図上では近接しているように見えるCP間でも、実際には複雑な小沢や急斜面が入り組んでおり、直線的に進むことが難しい状況でした。
あるCPから次のCPへ移動する際、地図上の等高線パターンと実際の地形が夜間で見えにくく、また疲労からか地図読みが甘くなっていたことで、一つ手前の小沢を目標物と誤認してしまいました。これにより、本来進むべき方向からわずかにずれてしまい、次のCPになかなか到達できませんでした。チーム内で「おかしい」と気づいたのは、本来通過するはずのない植生の変化に遭遇した時でした。
この時、迅速な対応が求められました。
- 冷静な現状把握: まず立ち止まり、チーム全員で地図、コンパス、そしてGPS(確認用として携行)を使って、現在の正確な位置を特定することを優先しました。焦らず、目に見える地形(樹木の種類、地面の傾斜、周囲の沢や尾根の向き)と地図上の情報を慎重に照合しました。
- 原因の特定と修正: 位置が特定できたことで、一つ手前の小沢を誤認したことが原因だと判明しました。すぐに進むべき方向を修正し、軌道に乗りました。
- 時間損失の評価と次の判断: このミスにより、約30分の時間損失が発生しました。この遅れをどう挽回するか、次のCPへのアプローチ方法を再検討しました。当初計画していたルートよりも、ややリスクはあるものの距離を短縮できる直進ルートを選択し、ペースを上げて進む判断をしました。この判断は結果的に成功し、次のCPには予定より多少遅れたものの、大きなタイムロスなく到達できました。
CP密集地帯を抜けるまで、このような細かい判断と、時にはミスからの修正を繰り返しました。特に、疲労が増すにつれて、地図上の距離感や方角の感覚が鈍くなることを実感しました。チーム内での声かけや、意識的な相互確認が、これ以上の大きなミスを防ぐ上で非常に重要でした。
装備面では、ヘッドライトの光量とバッテリー持ちが、夜間の細かい地形を読む上で非常に重要でした。また、地図をすぐに取り出せる場所に収納しておくこと、濡れないように適切に保護することも、ナビゲーション効率に直結しました。
詳細な振り返りと分析
このCP密集地帯での経験は、多くの学びを提供してくれました。
成功要因:
- 事前の詳細な地図読み込みと地形特徴の把握: これにより、ミスに気づいた際の現状把握が比較的スムーズに行えました。また、最初の安全策ルート選択も、事前準備に基づいたものでした。
- チーム内での相互確認とコミュニケーション: 疲労下での声かけや、違和感に気づいたメンバーの発言が、大きなルートロストを防ぎました。
- ミス発生時の迅速な対応: 焦らず現状把握に努め、原因を分析し、速やかに軌道修正できたことは、時間損失を最小限に抑える上で重要でした。
失敗要因:
- 疲労による地図読み精度の低下: 特に夜間において、地形の細かい変化や距離感を正確に把握する能力が、疲労によって著しく低下しました。これにより、目標物の誤認が発生しました。
- 細かい地形を見落とす焦り: 複数のCPを効率よく回りたいという焦りから、地図上の重要な地形特徴を見落としたり、確認を怠ったりする場面がありました。
- チーム間の認識のずれ: 事前にルート候補を検討していましたが、疲労下でのコミュニケーション不足から、想定していたルートと異なる方向に進んでしまうような、微細な認識のずれが発生しました。
読者への学び:
- CP密集地帯では、一つ一つのCPへのアプローチだけでなく、エリア全体を効率よく回るための「線」としてのルート判断が重要です。
- 疲労困憊下では、地図読みの精度が必ず低下することを前提とし、普段以上に慎重な確認作業が必要です。チームでの相互チェックは必須と言えます。
- 目標物となる地形特徴は、一つに頼らず、複数の要素(例えば、沢の形状、尾根の向き、植生、標高など)を組み合わせて確認する癖をつけることが、誤認を防ぐ上で有効です。
- ミスは必ず発生するものです。重要なのは、ミスを早期に認識し、冷静に現状を把握し、迅速に修正することです。立ち止まる勇気と、現状把握のための適切な手順(地図、コンパス、補助ツール)をチームで共有しておくことが不可欠です。
- 夜間ナビゲーションの精度は、ヘッドライトの性能に大きく左右されます。地形を正確に読み取るには、十分な光量と適切な照射範囲が必要です。
装備レビュー
今回のCP密集地帯でのナビゲーションを振り返る上で、特に重要だと感じた装備についてレビューします。
- ヘッドライト: 今回使用したジェントスNRX-180Hは、夜間の細かい地形を読むのに十分な明るさがあり、配光も広すぎず狭すぎず適切でした。バッテリーの持ちも、予備バッテリー携行で問題ありませんでした。CP密集地帯のような細かい作業が続く場面では、手元や地図を照らすためのサブライトや、赤色LED機能(他のメンバーの眩惑を防ぐ)も有効だと感じています。
- コンパス: スントのオリエンテーリングコンパスを使用しました。迅速な方位確認と地図上でのライン引きに欠かせません。レース前に磁北線とマップを合わせておく作業は基本ですが、CP密集地帯では特に、細かな方向転換が多いため、正確なコンパスワークが求められます。
- 地図ケース: オルトリーブの防水地図ケースを使用しました。地図を折りたたんで首から下げ、常時すぐに確認できる状態にしておくことが、ナビゲーションの効率を大きく向上させます。浸水や破れがなく、過酷な環境下でも地図を保護してくれる信頼性は重要です。
- 補給食: CP密集地帯での細かいナビゲーションは、想像以上に脳のエネルギーを消費します。集中力を維持するためには、定期的な糖分補給が有効でした。ジェルやエナジーバーなど、手軽に摂取できるものを活用しました。
具体的な改善策
今回の経験から得た学びを活かし、次回のレースに向けて以下の具体的な改善策を実行します。
- 地図読み練習の強化:
- 特に等高線が密なエリア、地形が複雑なエリアに焦点を当て、様々な縮尺の地形図(1/25000、1/50000など)を用いて読み込み練習を行います。
- 地図上の特定の地形特徴(ピーク、鞍部、沢の源頭、尾根の末端など)を、地形図だけを見て素早く特定する練習を行います。
- 国土地理院のWebサイトなどで公開されている空中写真と地形図を照らし合わせ、地図上の情報と実際の地形の見え方を比較する練習を行います。
- コンパスワークと歩測の精度向上:
- 平坦地だけでなく、アップダウンのある地形や植生の密な場所で、目標地点に対して正確に進むコンパスワークの練習を行います。
- 疲労下を想定し、心拍数を上げた状態でのコンパスワーク練習も取り入れます。
- 100mや200mあたりの歩数を様々な斜度で計測し、歩測の精度を高めます。
- チームナビゲーションシミュレーション:
- 地図とコンパスのみを用いて、CP設定された架空コースをチームでナビゲーションする練習を行います。
- 意図的に簡単なナビゲーションミスを発生させ、そこからのリカバリー手順(現状把握、原因特定、修正)をチームで実践練習します。
- 疲労が判断に影響する状況を想定し、夜間や長時間の練習中にシミュレーションを行います。
- 疲労下の判断力維持への対策:
- 長時間のトレーニングの中で、意識的に集中力を持続させる練習を行います。
- レース中の適切な休憩と補給のタイミングについて、チームで明確なルールを設けます。
- 精神的な落ち込みや焦りを感じた際の、チーム内での具体的な声かけや対処法を事前に話し合っておきます。
これらの改善策を通じて、CP密集地帯のようなナビゲーション難易度の高いセクションにおいて、より正確で効率的なルート選択と判断ができるようになることを目指します。
まとめ
「ミスティアイルズアドベンチャー」のCP密集地帯での経験は、アドベンチャーレースにおけるナビゲーションの奥深さと難しさ、そしてチーム連携の重要性を改めて教えてくれました。特に、疲労困憊下での正確な判断がいかに困難であり、事前の準備とレース中の意識的な確認作業が不可欠であることを痛感しました。
CP密集地帯は、単にCPを順番に回るだけでなく、エリア全体の地形を俯瞰し、最適なルートを瞬時に判断する能力が求められます。今回の失敗から学んだ教訓を、具体的な練習と準備に落とし込み、次回のレースではこのセクションをよりスマートにクリアできるように努めます。読者の皆様のナビゲーションスキル向上の一助となれば幸いです。